中村橋之助 『紅翫』 一人で何役もやって見せるちょっと変わった大道芸人【今月の歌舞伎座、あの人に直撃!! 特集より】
毎月歌舞伎座公演で上演される演目のなかから、気になる場面やせりふ、キャラクター、衣装などをピックアップ。客席からは知る事のできないあれこれを、実際に演じる役者に直撃質問! これを読めばきっと生の舞台を体感したくなるはず。 さぁ、めくるめく歌舞伎の世界へようこそ。(「ぴあ」アプリ&WEB「ゆけ!ゆけ!歌舞伎“深ボリ”隊!!」今月の歌舞伎座、あの人に直撃!! 特集より転載) 【全ての写真】中村橋之助さんインタビューカット、最新舞台写真ほか 浅草のような観光地で必ず見かけるのが、ご当地の著名人をかたどった顔出しパネルとストリートパフォーマー。「八月納涼歌舞伎」第二部の『艶紅曙接拙』(いろもみじつぎきのふつつか)にも、江戸の市井のさまざまな商人たちにまじって、かなりユニークなストリートパフォーマー、通称「紅翫」が登場する。 <あらすじ> 富士山の山開きでにぎわう浅草。隅田界隈には蝶々売り、朝顔売り、団扇売りに虫売りと、さまざまな商人たちがやってきて夕涼み。そこへ、額におかめの面を着け、青竹の棹に味噌漉しの胴を使ったお手製の奇妙な三味線を持ち、さらに小さな太鼓を腰に挟んだ男が現れて……。 当時の人々になじみ深い物語の一場面や登場人物を鮮やかに取り込み、今風に言うならマッシュアップし、パロディにしたてて踊った紅翫。このユニークな芸人には浅草の小間物問屋紅屋勘兵衛というモデルがいたという。「紅勘」とも表記されるが、初演では四世中村芝翫が扮したため、日本舞踊中村流では「紅翫」と表わす。今回の深ボリ隊はこの紅翫をロックオン。 今月の歌舞伎座で成駒屋ゆかりの紅翫を勤めるのは中村橋之助さんだ。どう見ても他の登場人物たちとは一味も二味も違う奇妙ないで立ちだ。これはいったい何を表わしているのか。紅翫のパフォーマンスが市井の人々になぜ大人気だったのか。舞台稽古を終えたばかりの橋之助さんを直撃した。
Q. 歌舞伎通も初心者も、見どころたっぷりの 舞踊劇「紅翫」の楽しみ方は?
── お父様(中村芝翫)が2016年に歌舞伎座で踊られて以来8年ぶりで、橋之助さんもそのときは大工で出てらっしゃいました。今回は橋之助さんが紅翫を踊られます。 中村橋之助(以下、橋之助) 実は僕、橋之助襲名以来、歌舞伎座で出し物をさせていただくのが今回が初めてなんです。(中村)福之助は今年『五人三番叟』、おととしの8月には(中村)歌之助が『新選組』を出しましたので、兄弟では僕が一番最後になりました。なのでそこがまずありがたいです。それも成駒屋にとって大切な、この『紅翫』で出し物ができるのもうれしいですね。ほんとにことさらなんということのない踊りなんですが、それだけにいかにお客様に楽しんでいただけるかが大事だと思っています。 ── 歌舞伎を見始めてまもない方でも江戸の様々な風俗が楽しめますし、歌舞伎好きな方なら「あ、ここはあの狂言のあれだ」と発見する楽しみがありますね。 橋之助 そうなんです。「歌舞伎舞踊あるある」ですがパロディ場面の連続なので、そうやって見つけていただくのが本来の楽しみ方でしょうね。 ── 紅翫・・・とにかくユニークな人のようですね。 橋之助 今なら大道芸人でしょうか。よくバラエティ番組の「変人特集」で、家にある雑貨で発明品作っちゃうような人が出てくるじゃないですか。あれを思い出すんです。お三味線もお手製だし、次から次へといろんな楽器が弾けるように太鼓とかも身に着けていて、何だかピタゴラスイッチみたいで(笑)。浅草でポーズつけて動かない大道芸人がいたりするじゃないですか。ちょっとあんな感じで、そこに遊びに来た人たちがわいわいと眺めている。現代と変わらない楽しみ方なのかなと。 ── 拵えも独特です。頭巾におかめの面を着けて。 橋之助 今僕の着ている浴衣もそうですが、うち(成駒屋)の紋をもじって着付にたっつけ袴にお扇子、全部「かんつなぎ」の柄になってます。日常を切り取っている舞踊なので、このお役に関してはあまり顔は作りこまずにできるだけナチュラルにしています。今回はこのおかめの面を着けて踊るところは時間の都合でカットしていますが。 ── 本舞台に虫売りや朝顔売りなど商人たちが顔を揃え、それぞれ一踊りしたところで紅翫を呼び出します。 橋之助 これも「歌舞伎あるある」ですが、お膳立てしてもらったところへ主役が花道を出ていきます。ここはとにかく爽やかに気分よく出ていきたいですね。