2024年クラウドAIを巡る5つのトレンド:想像を超えるスピードと規模感でAIが現実のものに
バーティカルAIは既存のSaaSと競合しない形で拡大
べッセマー社はバーティカルAIスタートアップの大きな特徴として、従来のSaaSと競合しない機能に強みを持つことを挙げる。現在バーティカルAIアプリケーションは、既存のSaaS製品を補完するポジションにあり、既存商品を複製し置き換えるようには求められていない。 その一方で、バーティカルAIスタートアップは、従来のバーティカルSaaSのコアシステムの80%程度のACV(顧客1人あたりの年間契約額)を既に獲得している。つまり、企業側はバーティカルAIへの支出をソフトウェア費の代替ではなく、新たなサービス費用として捉えているということだろう。 バーティカルAIスタートアップは前年比400%の勢いで成長しており、その粗利益率は平均65%で、健全な効率性を誇っている。彼らのコスト構造も盤石で、開発コストは収益の10%程度、総売上原価の25%程度だ。開発コストは今後更に引き下げが可能で、彼らの利益は向上していくだろう。 当然ながら既存のソフトウェア企業もこの動きを注視しており、トムソン・ロイターはCaseTextを6億5,000万ドルで、DocusignはLexionを1億6,500万ドルで買収するなど、バーティカルAIスタートアップを買収する動きも出ている。 EvenUp、Abridge、Rilla、AxionといったAIバーティカルスタートアップのリーダーたちは驚異的なスピードで成長しており、べッセマー社は今後2-3年の内にARR(年次経常利益)が1億ドルを超えるスタートアップが少なくとも5社は誕生し、IPOも発生するだろうと予想している。
5.AIがコンシューマークラウドを生き返らせる?
個々の消費者にクラウドベースのストレージやデジタルアプリケーションを直接提供するコンシューマークラウド分野は、この10年低迷を続けてきた。 Cloud100(2016年~Bessemer、Forbes、Salesforce Venturesが毎年発表しているクラウド企業ランキングTop100)のうち、コンシューマークラウド企業は3-4社のみで推移しており、2018年のDropbox以来、IPOも途絶えている。消費者向けテクノロジー自体、iPhoneとソーシャルメディアプラットフォームが開発されて以降、大きな変化がなかったともいえる。 しかしこの2年でLLMのマルチモーダル機能が急激に進化し、AIは一般消費者からも高い関心を寄せられる対象となった。たとえばChatGPTへの月間アクセス数は、X(Twitter)とほぼ同じレベルにまで増加しており、AnthropicのClaudeやGoogleのGeminiなど他の汎用AIアシスタントも注目度を増している。 その他にも、検索のPerplexity、交流系のCharacter.ai、音楽生成のSunoとUdio、映像生成のLuma、Viggle、Pikaなど、各分野で消費者向けAIスタートアップが高い評価額で多額の資金を調達し、イノベーションを進めている。 AIによってテクノロジーとの関わり方や遊び方が変化している今、消費者向けクラウドは開発者や投資家にとって魅力的な市場のひとつになりつつあり、べッセマー社は今後5年間で複数の消費者向けクラウドIPOが行われると予想する。LLMの技術革新が私たちの生活を大きく変え、コンシューマークラウドの市場環境を活性化させることは確実なようだ。