誠実だった部下が顧客情報もろとも社員を引き抜いて独立、リフォーム会社社長が講じた“裏切りへの一手”とは
筆者は、吉本でお笑いコンビ「オオカミ少年」で活動する傍ら、探偵事務所の代表を務めています。私の探偵歴十数年の中でさまざまな調査の相談を受けました。多岐にわたる調査経験の中で、近年依頼が増えていると感じるのが「企業の信用調査」です。調査の目的はさまざまで、その内容は依頼主の要望により多岐にわたります。今回は、私が調査した実例を交えながら、企業信用調査の実態についてご紹介します。(探偵芸人 オオカミ少年・片岡正徳、登場人文はすべて仮名) 【この記事の画像を見る】 ● 一代で築いたリフォーム会社 顧客の8割は紹介 今回の依頼者は、桑原錠さん(34歳・男性)です。 桑原さんが代表取締役を務める会社は、二十数人の従業員を抱える中小企業です。 業務内容は戸建て住宅を専門として屋根や壁のリフォームを手がけており、顧客リストをもとにビジネスを展開しています。 桑原さんが一代で築いた会社は15期目を迎え、有能な社員や職人たちの働きの下、これまでなかった支店をこの1年間で東京都内に五つも立ち上げるという急成長を遂げていました。 桑原さんの真摯(しんし)で誠実な経営方針に、取引先は大きな信頼を寄せてくれ、顧客の8割は紹介からというビジネスモデルでした。そのため顧客名簿は経営の根幹と言えるほど重要なものでした。
● 家業を継ぐと辞めた元職人 兄貴分と慕っていた従業員も続いて退職 ある日、桑原さんは元社員で職人である矢永基直さん(29歳・男性)が同業の新会社を立ち上げ、桑原さんの会社の従業員を引き抜いて営業を行っているといううわさを聞きました。 矢永さんは半年前に、群馬県の実家に戻り家業の左官業を継ぐという理由で退職した社員でした。矢永さんを兄貴分と慕っていた若い従業員2人もその数カ月後に「やりたい仕事ができた」という理由で退職しました。 桑原さんは「できることがあればサポートするから」と快く送り出したのでした。 桑原さんは、快活で働き者だった矢永さんの性格を考えると、そんなうわさは信じたくはありませんでした。しかし、数日して別の知り合い数人からも同様のうわさと、桑原さんの会社の顧客に挨拶回りをしているという話まで入ってくるようになりました。 「もしかしたら矢永さんは大事な顧客リストのコピーを所持していて、自社の顧客が狙われるのでは?」という疑念が桑原さんの頭の中から離れなくなりました。 そういった状況に至り会社と顧客を守るため、桑原さんは知り合いを通じて私の元に相談に来られました。 必要な情報を聞き取り、翌日からすぐ調査に取り掛かりました。 矢永さんの居住地については実家の情報はなく、退社前までの情報しかありませんでしたが、まずはそこから調査を始めることにしました。 6年前の入社時に受け取った履歴書に書いてある住所のアパートに行ってみましたが、部屋番号のポストには別人の名前が書いてありました。 隣人に聞いたところ矢永さんのことを覚えていましたが、数カ月前に引っ越したとのことでした。私は実家を見つけだすしかないと思い、お礼を言って立ち去ろうとすると、隣人は矢永さんの姿を今でも見るらしく、歩いて3分ほどにある所有車の駐車場を教えてくれました。 私はその駐車場に急いで行きましたが、午前9時過ぎの時点では車は止まっていませんでした。