定年を迎えた人が抱える最大の悩み…「生前整理」を成功する人と失敗する人の「決定的な違い」
元伊藤忠商事会長、そして民間人初の中国大使を務めた丹羽宇一郎さん。仕事に生涯を捧げてきた名経営者も85歳を迎え、人生の佳境に差し掛かった。『老いた今だから』では、歳を重ねた今だからこそ見えてきた日々の楽しみ方が書かれている。 【画像】ほとんどの人が老後を大失敗する「根本的な理由」 ※本記事は丹羽宇一郎『老いた今だから』から抜粋・編集したものです。
「終活」をどう始めるか
家にある蔵書や仕事で使っていた資料について、「上手に処分したいのだが、愛着があってなかなかうまくいかない」という声を聞くことがあります。 その気持ちは私もよくわかりますが、後生大事に保管していても、自分が死んだときには家族が処分に困ります。 本というものは関心がなければ、もらってもただの紙束ですし、よほどの稀少本でない限り、古本屋に行っても二束三文にしかなりません。どうしても手元に残して読み返したい数冊と、家族が「読んでみたい」と言うものだけ残せば十分ではないでしょうか。 仕事の資料は、家業などで必要なもの以外は処分し、散逸させたくないものは信頼できる人に託すといいと思います。その仕分けはあなたにしかできないのですから、自分で処理できなくなる前にやってしまうことが大事です。 私も、古い仕事の資料や本を読み返す時間などないと割り切り、淡々と処分しています。 仕事の資料は、アメリカの農業問題や中国関係、ビジネス関係の新聞記事や雑誌記事、書籍などが大きな段ボール箱五、六箱になっていました。それらを自分で仕分けし、必要ないものは捨てて、本当に大事なものだけを多少残しています。 大学時代から読んでいた経済誌は、アメリカ駐在時代も日本から取り寄せ、半世紀以上読み続けてきました。バックナンバーが全部揃っているので捨てるのはもったいないと思い、近所の古本屋に持って行ったのですが、秤で量って「いくら」と、非常に安い値を言われました。
あまりの激安に怒り
さすがにこれには「量り売りで二束三文とは何事だ」と腹が立ちましたが、持って帰っても置く場所がない。神田の古本屋に持って行けば高く売れたと思いますが、それも面倒くさいので、泣く泣くその店に量り売りとしました。 雑誌以外の読み終えた本は、以前は自宅の書棚に縦横に立てたり積んだりして押し込むように入れていて、その重みで床が割れるんじゃないかと思うほどでした。 それらの本のうち、レーニンやマルクス、毛沢東の全集、日本共産党の政治論集、アメリカの関連本などは、七〇代前半に駐中国大使を務めていた頃、日本から大使館経由で送ってもらい、いずれは日本大使館の図書室に寄贈しようと考えていました。 しかし、北京外国語大学から「ぜひ譲っていただきたい」と請われ、「中国の人々のお役に立つのなら」と、ほとんどすべてをこの大学の北京日本学研究センターに寄贈しました。同センターが設けてくれた「丹羽文庫」というコーナーに、私の蔵書が保存されています。 蔵書を捨てるにしのびないという方は、近隣の公立や私設の図書館、学校、福祉施設などに、寄贈を打診してみるのもいいと思います。私の知る限りでは、よほど特別な本でないと今は受領する施設はないようですが、もし受け入れてもらえれば、新たな読み手の役に立つかもしれません。 さらに連載記事〈ほとんどの人が老後を「大失敗」するのにはハッキリした原因があった…実は誤解されている「お金よりも大事なもの」〉では、老後の生活を成功させるための秘訣を紹介しています。
丹羽 宇一郎