市川青虎『裏表太閤記』演出補・「プレッシャーはあるけど面白くてやめられない」【今月の歌舞伎座、あの人に直撃!! 特集より】
お客様に喜んでいただくために、勇気を出して言うこともある
── 新作歌舞伎、スーパー歌舞伎などなど、どんな狂言で演出はどなたで、ということで補佐する仕事も変わってくるものですか。 青虎 変わりますね。『菊宴月白浪』(23年7月歌舞伎座)は石川耕士さんが脚本・演出で、「ここで役者の感情としてはそうは運べないだろう」などといった役者の心情と動きについて意見を求められることが多かったです。『新・水滸伝』(23年8月歌舞伎座)の演出の杉原邦生さんの場合は歌舞伎座での演出は初めでしたから、彼が実現させたいことをこの舞台機構ならどうやったらできるか、そこは誰に何を頼むとできるか、そういったことを考えました。 ――音楽や振付、大道具や小道具に関わる局面もあるのですか。 青虎 今回は、ご宗家が演出も振付もなさっているので、僕に任せてくださっているところは自分から動くようにしています。音楽についても、ご宗家が「ここはこんな感じがいいな」と義太夫に対して思ってらっしゃることを、「じゃ僕が伝えます」と代行したり。例えば大詰の太閤三番叟でも、どこで誰が入るかなどの地方(じかた)さんとの打ち合わせもまずは僕に判断させてもらって、持ち帰ってご宗家に最終的に判断していただきます。そこでご宗家が「うーん、こうした方がいいな」と言うと、なるほどそういう手があったかと。これがすごく勉強になるんです。 ── 役者さん、地方さん、舞台の各スタッフのみなさんとの密なコミュニケーションが肝となりそうですね。 青虎 最初のころはそこに難しさも感じました。「なんでアイツがやってるんだ」という圧を、いろいろな方面からの態度と行動で感じていましたので(笑)。でも、役者もスタッフも、僕らもう何十年も一緒に芝居やってきてた旧知の間柄なんです。だから僕が勝手に圧を感じていただけかもしれません。当然、相手が大先輩でも言わなきゃいけないことが出てくることがあります。同じ役者として、ここをこう変えると嫌だろうな、面倒だろうなと思うことも。でももう一発作品を良くするために言わなきゃいけないこともある。勇気を出してお願いすると「うん、そうだよね」って皆さんわかって下さる。優しいですよ。役者同士としてでは分からなかったおひとりおひとりの心意気みたいなものが、演出側の立場に立ってみて初めて分かった、なんてこともあります。 ── その「もう一発良くするために」とは、例えばどんなことだったのですか。 青虎 例えば立廻りです。立師の(市川)猿四郎さんにたたき台を作ってもらったのですが、実際に流してやってみると、このままでも成立はしているけど何かが足りない。なので「構成を変えてください」と言いました。ごっそりやめる箇所もあったし、新しく追加する必要も出てきました。作った方も覚えた方も大変です。よく言われるのですが「自動販売機じゃないんだからポンと押せば出てくるもんじゃないよ」と。時間をかけてこだわって作ってもらったものをカットしたり入れ替えたりするなんてものすごく心苦しい。でもそれを重々承知で壊してもらわなきゃならないこともありました。 ── そこを突破する、説得するために、大事なこととは何なのでしょう。 青虎 お客様にどういう形で喜んでいただきたいか、そのコンセプトにはまっているのかどうか、ですね。自分たちが思い描いていたものにはまっていないのではないかと思ったら、ご宗家、立師、(松本)幸四郎さんという先輩方の前でも言いたいことを言わせてもらっています。……今、こうやって話しながら改めて、「オレ、好きなことやらせてもらってるな」と思いました(笑)。 今月の座組でいえば、みんな育ってきた“家”が違うわけです。ご宗家ならおじい様(二世藤間勘祖)、お父様(五十六世梅若六郎)、お母様(三世藤間勘祖 )という血筋、幸四郎さんは高麗屋として、僕は師匠(猿翁)のもとで、それぞれ育ってきた環境が違う者同士で議論するわけです。ですが行きつくところは一緒。面白くしたい、お客様に喜んでいただくにはどうしたらいいか。幼いころに同じものを見て同じものにワクワクしてきた比較的世代の近い皆さんと芝居を作っている喜びがあります。