“中年おじさんが美味しいもの食べるだけ”のドラマがなぜ面白いのか。61歳俳優、最大のヒット作のワケ
2012年のSeason1放送から12年を経た『孤独のグルメ』(テレビ東京)は、気づけばSeason10(2022年)、『配信オリジナル2』(2023年)、さらに2025年1月10日には『劇映画 孤独のグルメ』が公開予定、という長期シリーズになった。原作は久住昌之(原作)と谷口ジロー(作画)による同名漫画である。 【画像】Season1放送から12年を経たドラマ『孤独のグルメ』 主演の松重豊扮する井之頭五郎が、ただ美味しいものを食べるだけのドラマがどうしてこんなに面白いのか。毎週金曜日、深夜12時12分から放送されている特別編『それぞれの孤独のグルメ』では、五郎だけではなく、ご飯屋の店主などそれぞれのドラマもフィーチャーされる。 イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、Season1から振り返りながら、食前食後のドラマを楽しむ本シリーズの醍醐味を解説する。
五郎さんの副音声みたいに聞こえてしまう
NHKで放送される紀行番組なんかで、冒頭の画面右下に「松重豊」と表示されているのを見ると、その豊かなナレーションを聞く前から、「あ、五郎さんだ!」とワクワクしてしまう。 五郎さんとは、松重豊の長い俳優人生で最大のヒット作となったドラマ『孤独のグルメ』シリーズの主人公・井之頭五郎のことである。中年おじさんがひとり、毎回お昼時にうまい店でうまいご飯を食べる本シリーズでは、全編ただただ松重のモノローグをベース音に、松重がただただご飯を食べる絵が積み重なる。 「腹が減った」とぼそりつぶやくモノローグをきっかけに、鋭い嗅覚でご飯屋を探しあてる。うまいご飯を一口、「おぉ」とか「うまい」とまたぼそりつぶやくだけで、くすりとさせる。 この五郎さんモノローグに一度はまると、まったく関係ない映像作品でも松重のナレーションがつい五郎さんの副音声みたいに聞こえてしまうのだ。
Season10まで数える長期シリーズ
でも普通、モノローグやナレーションが多用されると、絵(ショット)で見せるはずの映像表現の本分がどうしても薄まってしまう。近年のテレビドラマ作品最大の問題点は、主人公によるだらだらモノローグが延々続く表現力の欠如にある。 なのに、五郎さんのモノローグはむしろ無言で食べる芝居を続ける松重を映像的に引き立てている。不思議である。ずっと聞いていたい。ずっと見ていたい。と思って画面を注視していると、こちらまで腹が減ってくる。 なんとまぁうまくできたドラマだろう。声(モノローグ)と絵の持続的なシンクロナイズによって、2012年のSeason1からSeason10(他に配信オリジナル2など)まで数える長期シリーズになった。