市川青虎『裏表太閤記』演出補・「プレッシャーはあるけど面白くてやめられない」【今月の歌舞伎座、あの人に直撃!! 特集より】
毎月歌舞伎座公演で上演される演目のなかから、気になる場面やせりふ、キャラクター、衣装などをピックアップ。客席からは知る事のできないあれこれを、実際に演じる役者に直撃質問! これを読めばきっと生の舞台を体感したくなるはず。 さぁ、めくるめく歌舞伎の世界へようこそ。(「ぴあ」アプリ&WEB「ゆけ!ゆけ!歌舞伎“深ボリ”隊!!」今月の歌舞伎座、あの人に直撃!! 特集より転載) 【全ての画像】市川青虎インタビュー写真ほか 現代劇には演出家の存在が欠かせないが、歌舞伎の公演では演出家を置かず、一座の座頭の俳優がその一幕をまとめあげるのが一般的だ。だが、埋もれていた古典の狂言に光を当てて再構成した復活狂言、スーパー歌舞伎、新作歌舞伎、コクーン歌舞伎に超歌舞伎などなど、脚本、振付、補綴などと並んで演出家の名前がクレジットされることは実は少なくない。 今月の「七月大歌舞伎」の夜の部は、二世市川猿翁が初演して以来43年ぶりとなる『裏表太閤記』だ。筋書の外題の横にずらりと並ぶスタッフの名前の中にただひとり、俳優の名前がある。演出補の市川青虎さんだ。 二世市川猿翁の部屋子として入門、澤瀉屋(※瀉のつくりの正式表記はワ冠。以下同)の役者として腕を磨く一方で、『新・三国志』『新・水滸伝』『新・陰陽師』や『東海道中膝栗毛 ―弥次喜多流離譚』など、演出家を補佐する機会が増えた。 そこで今月の深ボリ隊は初日を目前に控えた青虎さんを直撃。演出を支える仕事=演出補という仕事への思いについて、たっぷりとお話をうかがった。 <あらすじ> 織田信長が謀反の疑いのある松永弾正の館を包囲すると、主君を裏切り将軍を滅ぼした弾正は、実子の明智光秀にお家再興を託し自ら館に火を放つ。その信長も本能寺で光秀にその野望を打ち砕かれ……。
Q. 歌舞伎の演出補の仕事とは? その醍醐味を教えて
── 青虎さんが演出家を補佐する仕事に携わるきっかけは何だったのですか。 市川青虎(以下、青虎) 澤瀉屋の若手グループ「猿之助と愉快な仲間たち」の公演がきっかけです。(市川)猿之助さんが出演も演出もされるため、どうやってもご本人の手が回らないだろうということで、僕が演出のお手伝いをするようになったのが最初ですね。やろうとしていることはすごく面白そうなことなのに、ご本人の負担が多過ぎてできなくなるなんて本末転倒だと。 ── 具体的にはどんなことをするのですか。 青虎 演出家のやりたいことを具体化するために補佐する仕事です。どこまでが補佐する仕事なのかと線引きが難しいですが。今回の『裏表太閤記』の演出はご宗家(藤間勘十郎)ですが、「どう思う?」と尋ねられることが多いので、できるだけ思ったことは言うようにしています。というのも、自分が演出をやってみてわかったのですが、誰か人の意見を求めたくなることがあるんですよ。なので選択肢が多い方がよさそうだと思った時は、遠慮せず意見を言うようにしています。 ── 台本の段階から携わることもあるのですか。例えば何と何の世界をどうかけ合わせようか、などということも? 青虎 新作の場合はそうですね。ただ基本的にはプロットなり準備稿なり、たたき台がきちんとある段階から参加することが多いです。今回は43年ぶりの上演なのでベースとなるものはあったんです。ただ前回は昼夜通しで上演していて、今回は夜の部のみ。どこかを抜いたり切ったりしなくてはなりません。となるとどこをどう辻褄を合わせるのかなど、しっかりと再構成する必要が出てきますし、またそれによって各所との打ち合わせなども生じてきます。 ── 抜き差し含め、再構成するときに大事なのはどういうことでしょう。 青虎 コンセプトがぶれないようにすることには気を使いますね。ただ歌舞伎ってすごいなと思うのは、「こんなふうにやりたい」ということをスタッフや役者の皆さんに投げかけると、それぞれのプロがきちんと仕上げてくださるんです。時には「あれ、これってこの間の打ち合わせと違うじゃん」って言われることもあります。「そうなんですよね。打ち合わせでは確かにAとなりました。すみません、それがAじゃなくなっちゃったんですよ」と正直に伝えると、その後もそれぞれきっちりとすごい仕事してくださる。毎月歌舞伎の劇場を開けている、その経験値を感じます。