【バイク短編小説 Rider's Story】記憶を辿るショートトリップ
〈確かめたくて〉 私は、昔の商店が残る山中の街道を南へ下っていた。52号線から1号線に入り、しばらく西へ走ってから、清水港に向かって左へ降りる。そのまま南西へ向かって走り続けた。清水港のあたりを過ぎ、三保半島の入口も通り過ぎると、左側に太平洋が見えてくる 私は、駿河湾を左に久能海岸を走っていた。 みんなとは九時過ぎに別れた。 コーヒーを飲みながら、お互いの近況を聞き合ったり馬鹿話をしたりして、小一時間を過ごした。やがて、西形さんは仕事があるからと、桑名は家族との約束があるからと言って、そのまま解散となった。他のみんなもゆっくりしていられる時間は無いのだろう。 十五年という月日はそれぞれに新たな責任を与え、さらに大人にさせていた。 別れ際、桑名が私にだけこう言った。 「バイクを手放します」と。 150号線を南へ向かって走っていた。安倍川を渡り、日本坂トンネルを抜けた。何かを確かめたくて、私はオートバイで走り続けていた。 後ろからオートバイの排気音が近づいてきている。私の乗る250ccの単気筒の排気音とは違う、四気筒の大型バイクだ。一台ではない。 ゆっくりと私の右横に並び、そしてじわじわと追い抜いていく。青色のGPZ900R、そして赤色のGPZが続く。ミラーを見ると、後ろにRMX、CRM、BIG1、と続いている。 私たち六台は一つの塊となって、記憶を辿って走っていた。 昼前には到着するはずの、県最南端の岬にある灯台に向かっていた。 おわり 出典:『バイク小説短編集 Rider's Story オートバイの集まる場所へ』収録作 著:武田宗徳
武田宗徳