【佐渡島を旅して】佐渡最小の酒蔵で仕込まれる最上級の日本酒にであう
ニッポンの「ローカルトレジャー」を探す佐渡探訪。今回紹介するのは、古式製法で仕込まれる佐渡で一番小さな蔵元だ。日本最大の離島で脈々と受け継がれた伝統の世界を逍遥する 【写真】佐渡島の伝統を受けつぐ能楽と蔵元へ
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今回紹介するのは、島で一番小さな酒蔵。佐渡で宿泊したホテルのディナーで味わった「至(いたる)」があまりの美酒だったことから、無理を承知で直前に取材依頼をお願いしたという経緯がある。 ワイングラスで出された件の純米吟醸は、優しいコクと旨みを感じながらも後味がキリッと引き締まるようで、一瞬にして魅了された。目指した味が、そのまま飲み手に届く“素顔の美酒”というセオリーを掲げ、明治5年から実直に酒造りを守り続けている5代目当主・逸見明正さんに、その言葉に込めた想いを伺った。 「素顔という表現は、絞られたままで余計な手を加えないということです。実は、私も父もあまりお酒が強いタイプではなく(笑)。飲めないからこそ、お酒の味にしっかりこだわることができたのだと思っています」と逸見さん。 新潟の酒といえば、飲みやすさを追求し炭で濾過して個性を消した酒が主流だった時代もあるという。米から生まれた本来の酒の個性を大切にしてきた逸見酒造では、ブームが起きる前から純米酒に力を注ぐ酒蔵として、知る人ぞ知る存在でもあった。
かつて佐渡には200を超える酒蔵があったが、現在はわずか5箇所を残すのみ。その中でも、最小規模の酒蔵が逸見酒造である。 酒造りに不可欠な仕込み水には、敷地内の井戸水を使用。適度にミネラルを含む中硬水は、発酵を促すと同時に酒の個性が際立つという。また、最近は設備を整えて1年中仕込みを行う蔵が増えるなか、逸見酒造では年に1度、冬の間しか仕込みを行わない。さらに、仕込みの量も一回に人の目が届く量のみ。米を蒸し、そこに麹を加えてからは、杜氏の五感を頼りに蔵人の手作業によって粛々と酒造りが行われる。
ラインナップは「真稜(しんりょう)」と、「至(いたる)」がメイン。5代目当主に話を聞くほどに、昨晩飲んだ「至」が、なぜ心に真っ直ぐに届いたのかが頷けた。酒造りへの想いを知った後に傾ける一献は、さらに美味しく感じられるに違いない。取材後に四合瓶を抱えて海を渡ったことは、言うまでもない。
逸見酒造 住所:佐渡市長石84-甲 電話:0259-55-2046 http://henmisyuzo.com/ BY TAKAKO KABASAWA 樺澤貴子(かばさわ・たかこ) クリエイティブディレクター。女性誌や書籍の執筆・編集を中心に、企業のコンセプトワークや、日本の手仕事を礎とした商品企画なども手掛ける。5年前にミラノの朝市で見つけた白シャツを今も愛用(写真)。旅先で美しいデザインや、美味しいモノを発見することに情熱を注ぐ。