日銀追加利上げのペースは鈍化か(日銀金融政策決定会合):米国の動向次第で追加利上げは後ずれ:首相交代の影響も
米国の状況次第では日本銀行の追加利上げはさらに後ずれも
以上の4点を踏まえて、日本銀行の利上げのペースは鈍化すると予想する。現時点では、来年1月の追加利上げ実施を標準シナリオとし、来年6月には政策金利は0.75%まで引き上げられ、そこがピークになると予想する。しかし、追加利上げの時期が1月よりも前倒しとなるリスクよりも、後ずれするリスクの方が大きいのではないか。 仮に米国経済の減速が予想外に強まる場合には、日本経済にも悪影響が及ぶだろう。さらに、そうしたもとではFRBの利下げはより積極化し、ドル安円高が急速に進む。また、11月の米大統領選挙でトランプ氏が再選すれば、大規模な追加関税導入で米国及び世界の経済に大きな打撃を与える可能性がある。またトランプ氏はFRBに積極利下げを迫り、さらにドル安政策を公言するだろう。そのもとでは、日本経済が下振れ、また円高・株安が急速に進む可能性がある。 このような状況に至れば、日本銀行は1年以上、追加利上げを見合わせる可能性も出てくるのではないか。米国動向次第では、日本銀行の追加利上げはかなり後ずれするリスクがあるものと見ておきたい。
総裁選の行方と金融政策
現在の岸田政権は、日本銀行の独立性を尊重する姿勢が強い。そのもとで、日本銀行は今年3月に金融政策の正常化を開始できた。岸田政権でなかったら、正常化はもっと遅れていたのではないか。この点から、首相の交代は、日本銀行の今後の金融政策に少なからず影響を与える可能性があり、日本銀行にとって懸念材料だろう。 自民党総裁選の9人の候補の中で、高市氏のみは、日本銀行の利上げに否定的な姿勢を鮮明にしている。仮に高市氏が首相になれば、日本銀行の利上げは一定程度制約を受け、追加利上げのペースが落ちる可能性があるだろう。 他の候補は、主に円安修正の資するとの観点から、日本銀行の金融政策正常化を支持している。しかしこの先、円高が進んでいき、株価や経済への悪影響が顕在化すれば、日本銀行の正常化を支持しなくなる可能性も出てくるだろう。その場合、特に、河野氏や茂木氏のように、日本銀行の金融政策に直接注文を付けたことがある候補者は、日本銀行の金融政策の独立性を十分に尊重していない可能性もあり、彼らが首相になれば、状況次第では、日本銀行の金融政策正常化の制約要因になってくる可能性もあるのではないか。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
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