朝日新聞の捏造? 「撃ち方やめ」報道から見える、政治家と記者の微妙な関係
安倍晋三首相が側近議員に「撃ち方やめになればいい」と発言したと新聞各紙が報じたことについて、首相は、朝日新聞を名指しして「捏造だ」と批判しました。一体、何が起きているのでしょうか。なぜ、新聞各紙は、「首相が発言した」と報じたのでしょうか。報道で長い経験を持つベテラン記者が解説します。 -------- 与野党政治家の資金問題をめぐる「撃ち方やめ」発言が注目を集めています。いったい、政治家と記者の間で何が起きていたのでしょうか。そこに焦点を当てると、「政治と報道」をめぐる重要な問題が見えてきます。 まず「撃ち方」発言を整理しておきましょう。 発端は10月29日昼に自民党本部で行われた安倍晋三首相と側近の昼食会でした。「首相動静」によると、首相は午後0時半前に党本部に到着し、約40分間、萩生田光一総裁特別補佐、山本一太参院議員と昼食を共にしました。その場での「首相発言」とされたのが「撃ち方やめ」です。翌30日朝刊各紙から発言部分を拾ってみましょう。 朝日「これで『撃ち方やめ』になればいい――」 読売「枝野氏の話が出て(民主党が)『撃ち方やめ』となればいい。誹謗(ひぼう)中傷合戦になると、国民から見て美しくない」 毎日「撃ち方やめ、になればいい」 産経「中傷合戦は美しくない。撃ち方やめになればいい」 日経「誹謗中傷合戦になるのは美しくない。撃ち方やめになればいい」 共同通信は当日29日午後の配信で「誹謗中傷合戦は国民の目から見て美しくない。『撃ち方やめ』になれば良い」と記しています。前後の言葉に違いはありますが、首相自身が「撃ち方やめになればいい」と言った、という趣旨は各紙とも同じです。 これに対し、安倍首相は30日の国会で「きょうの朝日新聞ですかね、『撃ち方やめ』と私が言ったと報道が出た。これは捏造です」と発言。同じ30日夕には昼食会の同席者が「撃ち方やめ」と言ったのは自分である、と複数の記者に説明し、事実関係はほぼ確定しました。 問題はここからです。 発言主は自分だったと“修正”した「人物」は誰でしょうか。首相には担当記者(=番記者)が付いて回ることが多いのですが、首相は超多忙。立ち止まって記者の質問に答えるケースは多くありません。従って、非公開会合の内容を知るには他の出席者に取材することになります。今回のケースでは、昼食会に同席した2人のうち、萩生田議員が記者に説明したと首相は国会で明言しています。しかし、各紙はその後も氏名を報じていません。なぜでしょうか。政治取材の現実と取材ルールをひも解きながら考えてみましょう。