朝日新聞の捏造? 「撃ち方やめ」報道から見える、政治家と記者の微妙な関係
政治取材にはいくつかのシーンがあります。まず記者会見や国会審議、演説会、講演会など。記者クラブ加盟記者にしか取材が許可されない場合も多いのですが、これらは「公式取材」に分類できます。記者会見に準じる取材機会としては、政治家が廊下などで立ち止まって応答する「ぶら下がり」「囲み」もあります。 一方、公式取材以上に重視されるのが、「オフレコ」(オフ・ザ・レコードの略)取材です。オフレコには、頻繁に行われる「懇談」「ブリーフ」、自宅や議員宿舎を訪問する「朝回り」「夜回り」、自動車に一緒に乗り込む「ハコ乗り」などがあります。「ぶら下がり」「囲み」がオフレコになることもあります。オフレコはさらに、発言主を明示しないならば引用や部分引用が許される通常の「オフレコ」と、発言内容の引用を一切認めない「完全オフレコ」に分かれます。 取材は「信義則」によって成り立っています。「オフレコ」の条件が成立していれば、ルールを破って報道することは許されません。「撃ち方」問題では昼食会に同席した議員の1人、すなわち首相も認めているように萩生田氏が、おそらくオフレコで「囲み」に応じたのでしょう。それでも各紙がその氏名を報じないのはオフレコの約束があるからだと思われます。
今回の問題は、政治と報道に関するいくつかのデリケートな関係も露わにしました。 まず、「取材過程」の問題です。情報源は誰か、どういう取材経過で記事ができたのか。それがほとんど明示されていません。オフレコ条件の詳細は不明ですが、「首相は~と語った」の断定調ではなく、各紙が「昼食会の同席者によると、首相は~と語ったという」という形で報じていれば、事情は違ったはずです。実際、矢面に立たされた朝日新聞はその後、社説などで取材経緯を説明していますから、やろうと思えば最初から経緯も含めて記述できたのではないでしょうか。 今回に限らず、政治報道には伝聞であっても断定調で報じる場合が少なくありません。それが習慣になってきました。例えば、外交交渉における要人発言などは多くの場合、外務官僚のオフレコ・ブリーフに依拠していますが、そのプロセスを明示した報道例は多くありません。 この点は「確認とは何か」にも通じます。オフレコ取材で得た情報は取材源を明示して他者に取材できませんから、「○○さんはこう言っていますが、事実ですか」などと問えないわけです。一方、一国のトップは超多忙であり、記者の細かな質問にその都度答えることはありませんし、そうすべきとも思えません。その代わりにブリーフがあるとも言えます。その際、ブリーフ役が事実と違う内容を話したのであれば、その人物にも本当の経緯を明らかにする責任が生じるでしょう(今回のケースでは30日夕方、昼食会同席者による“修正”が既に行われています)。