敵か味方か「タコグラフ」! トラックドライバーも運送会社も「監視する」運行記録計の中身
ドライバーを苦しめてしまうことも
当時は、会社からの命令で高速道路は最低限しか使用できなかった。「寝る暇があるならば、下道を走れ」という会社だったわけだ。もちろん、そんな長時間の運行状況であれば業務停止という処罰の対象となるのは間違いない。タコグラフに運行状況が記録されてしまうため、会社としてはいい逃れができなくなってしまうのだ。 そこで、アナタコの本領発揮である。荷物の積み下ろしに要した時間、つまり手積み手おろしの際はもちろん停車中であることがチャート紙に記録されるのだが、その部分に荷物の積み下ろしではなく、仮眠と「書かされて」いたのだ。当時はそれで問題なく通っていたのだから、恐ろしい話である。 一方で、タコグラフはドライバーの味方になってくれることもある。きちんとした運行を毎日続けていると、会社からもきちんと評価されるからだ。しかし、多くのドライバーはタコグラフのことを煙たい存在だと感じているに違いない。4時間走行すれば30分の休憩を取らなければならない「430休憩」が施行されてからは、その窮屈さには拍車がかかっていることだろう。 対するデジタコは、先述したようにチャート紙ではなくSDカードなどのデジタル媒体に情報が記録されるようになっている。速度や走行距離、走行時間などの基本的な情報に加えて、エンジンの回転数や急加速、急減速、ドア開閉の回数、GPSによる位置情報まで記録される(!)というのだ。 アナタコではチャート紙に記録された折れ線グラフから情報を収集するほかなかったが、デジタコではきちんと数値化されるため、データの改ざんが困難になる。そのため、ブラックな運送会社がどんどん淘汰されるようになったのだ。さらに、運転日報を作成することも可能だという。この手間が省けるところは、ドライバーにとってありがたいことだといえるだろう。 しかし、それを差し引いても余りあるほどの窮屈さに参ってしまうドライバーも、多いのではないだろうか。 長距離ドライバーに対し、「ひとりだから自分のペースで気楽に仕事ができていいな」という皮肉めいた言葉を投げかける人たちは、かつて筆者が現役ドライバーだった時代にも数多く存在した。しかし、その内情はタコグラフによってつねに監視されている。そんな仕事をしていて、誰が快適だと思えるのだろうか。安全のためにタコグラフが必要不可欠な存在であるのは間違いないが、もう少しゆとりのある行程や適正なる運賃がトラックドライバーに支払われるような時代になることを、期待したいところだ。
トラック魂編集長 隅田真