人々に「差別の心」が生まれる社会心理学的な理由
私たちの言動や考え方は、社会や時代といった外部要因から大きな影響を受けています。心理学者・内藤誼人氏の著書『すごく使える社会心理学テクニック』(日本実業出版社)より一部を抜粋し、見ていきましょう。
差別の心は、経済状況によって変わる
差別は絶対にしてはいけませんが、そうはいっても差別の心が強くなるかどうかは、経済状況によって変わるという事実も知っておかなければなりません。 もし世界中のすべての国で貧困がなくなれば、おそらくは差別もなくなるでしょう。「金持ち喧嘩せず」という言葉もありますが、みんなが豊かになれるのなら、差別もなくなるだろうと予想できます。 そもそも、なぜ差別が生まれるのかというと、私たちは自分の貧しい境遇の責任を、他の人になすりつけることによって心理的な安寧を図ろうとするからです。「私がこんなに安月給なのは、あいつらのせいだ」と思えば、自分の貧しさを正当化できます。 米国エモリー大学のエミリー・ビアンキは、2年おきに行われるアメリカ・ナショナル・エレクション・サーベイから、3万189名の白人が、黒人をどう評価しているのかというデータを抜き出して分析してみました。なお経済状況は、失業率を使いました。GDPや株式市場の指標は、あまり経済のトレンドと一致しないので失業率を使ったのです。 その結果、経済状況が悪くなると、白人は、黒人を悪く評価するようになることがわかりました。 経済が好調のときには、白人も黒人に悪い感情はそんなに持ちません。ところが、いったん経済が悪くなってくると、差別の心がむくむくと湧き上がってしまうようです。 経済状況の好不調によって、差別の心の強度も知ることができるかもしれません。 中国が日本の海産物を全面禁輸したり、中国に住んでいる日本人を差別したりするのは、おそらくは国内の経済があまりうまくいっていないからでしょう。もし国内の経済がうまく回っているのなら、もっと友好的な態度を見せてくれてもよいはずですから。 中国の経済統計はあまり当てにならないという話も聞きますが、日本に対する態度の厳しさを調べれば、中国の経済状況がどれくらい悪いか間接的に推測することができるでしょう。 人種差別やゼノフォビア(外国人に対する嫌悪感)は、できるだけなくなってほしいと心から思うのですが、差別の心が経済状況にかなり大きく依存していることからすれば、なかなか根絶は難しいのではないかと思います。 悲観的な結論になってしまって申し訳ないのですが、世界のどの国も経済がよくなり、豊かな社会になってくれることを切望します。