安藤優子×浜田敬子×星薫子が見た「母・妻・娘」ケアの担い手として女性が受けた差別
人権問題に鈍感な日本
浜田:「女性はケアの担い手で夫に従属する立場だという点でいうと、私はナルゲスさんがインタビューしたうちの1人、マルジエ・アミリさんの分析が印象に残っています。マルジエさんはイランの刑務所の尋問の仕組みと家父長制社会に共通点を見出しているんですね。『尋問、暴力、懲罰、それらを通じて、尋問官は父親や兄、夫、国と同じ役割を演じています。彼らは女性に、従属的社会集団になることを強要しています』とマルジエさんはいいます。 一方でマルジエさんは、歴史的に女性に委ねられてきた『ケア』という社会的役割が、女性にしかできない方法で『強い意志』をたぐり寄せるとも言っています。尋問下では、ケアの精神こそ女性のうちなる責任感を呼び起こし、自分自身や気持ちや状況が自分に近い人間をケアするというんですね。加えて、尋問官が極端に不平等で不公平な状況を作り出しても、女性は普段から様々な不平等に傷ついているので、日々の経験を足がかりに、抵抗のレベルを一段上げることができるとも言っています。逆説的ではありますが、獄中生活の助けとなる強い意志は、父親、兄、夫、国に従属する立場で、ケアの担い手としての役割を続けてきたことで生まれたわけです。こういったイラン女性の仲間を守りたい、家族を守りたいという強い意志や粘り強い抵抗はすごいなと思います」 安藤:「本当にそう思います。ケアの担い手だからこそ、ものすごくひどい拷問を受けたし、ケアの担い手であり母であるということが彼女たちを強く支えたという側面もある。女性はケアの担い手であることが当然のように喧伝されている事実もある。『白い拷問』には、さまざまな社会レベルの問題点がつまっていて、いろいろな国のいろいろな社会レベルに問題を投げかけているように思います。濃淡はあるかもしれませんが、日本の社会だって偉そうなことは言えませんよね。 日本の社会において、いちばん鈍感だなと感じるのが人権問題です。人権問題と聞くと、どこか遠く離れたところでプラカードを掲げて騒いでいる人がいるというイメージを持っている人が多い気がするんですよね。人権問題に手を出すのは特殊な活動家であって、一般の市民じゃないという意識が日本では強く見受けられます。『白い拷問』は、イランの女性が抑圧されている問題を告発した証言集といった狭い視点ではなく、人権問題は自分たちの問題だと気づかせてもらえる本として読んでもらいたいと思います」 3人の話を聞いていくうちに、自由のために闘うイラン女性の問題は遠い国の話ではないと気付かされる。 6月26日公開予定の鼎談第3回「安藤優子×浜田敬子×星薫子 ノーベル平和賞受賞イランの「白い拷問」告発は他人事ではない」では、ナルゲスさんの告発が日本にいる我々にとっても他人事ではない理由と、対策のために必要なことをお伝えする。 構成・文/中原美絵子
安藤 優子(ジャーナリスト)/浜田 敬子(ジャーナリスト/前Business Insider Japan統括編集長)/星 薫子