子どもと接する仕事に「性犯罪歴を確認」する是非 小児性愛型の同種再犯率は5年間で5.9%
第3に、対象となる罪種も限定されている。法案では、子どもに対する性犯罪、児童ポルノ所持などに加えて、痴漢のような条例違反も対象となったが、下着窃盗などは除外された。 性犯罪は、同種事犯を繰り返す者がいる一方で、多種多様な別の犯罪に手を染める者もいる。今回は下着窃盗の事案であっても、次は別の性犯罪に及ぶ危険性がないとは言い切れないため、この線引きには合理性が乏しい。 ■性犯罪は発覚しない件数が多い このように、日本版DBSによって、憲法の保障する職業選択の自由を制限し、長きにわたって犯歴という個人情報を他者に提供するという「大ナタ」を振るうには、抑制的でなければならない一方、抑制的になれば「網の目」が広くなってしまって、取りこぼしがあるリスクがある。
さらに、性犯罪は暗数が多いことで知られる。発覚していない犯罪が多数あるということだ。これは被害者が恐怖心や羞恥心から被害を届け出ないこともあるし、届け出たとしても加害者の検挙に至らないということもある。 子どもの場合は特に、被害を受けていてもそれが性加害だと認識できなければ、加害者を取り締まることができない。このような場合は、当然犯歴として残らないため、網の目をかいくぐって性犯罪を続ける可能性もある。
このように、DBSには現実的な限界や人権上の懸念があり、その導入が期待されているものの、その効果は万全からは程遠いと言わざるを得ない。しかし、それを補完する方法がある。 先に、性犯罪対策は厳罰的・抑止的アプローチのほかに、治療的・再統合的アプローチがあると述べた。これらは排他的で二項対立的なものではなく、それぞれの利点を生かして補完し合うべきものだ。 DBSという制限的な方法を実施するのならば、それと抱き合わせて、治療や福祉のようなヒューマンサービスを一層充実化させるべきだ。これが、DBSの限界を補うことにもなる。