子どもと接する仕事に「性犯罪歴を確認」する是非 小児性愛型の同種再犯率は5年間で5.9%
■代わりの職業への就職サポートを たとえば、職業選択の自由を制限するのであれば、代わりの職業に就きやすくするための、職業訓練や就労支援を併せて行うべきだ。先に述べたように、就労の機会を剥奪すれば、社会から孤立した元犯罪者の再犯リスクが格段に高くなるからだ。そして、本人が社会復帰を遂げ、社会に再統合されるには、就労が一番身近で現実的な方法だからだ。 犯罪者を憎み、社会から排除するだけでは、犯罪は決してなくならない。ひとたび犯罪に手を染めたとしても、反省し罪を償った後に社会に戻ってきたとき、その者に居場所や活躍できる場所を提供し、社会が彼らを受け入れる必要がある。そうして初めて、本人もその居場所や社会的なつながりを愛し、それらを失うことを恐れるため、犯罪というリスクを冒さなくなるのだ。
そして、もう1つの重要な対策は治療だ。これはいくら強調してもしすぎることはない。数々の性犯罪対策のなかでも、最も確実な効果があるのは治療だ。刑務所に10年20年入ったとしても、あるいは生涯にわたって子どもと接触する職場から追放したとしても、本人の問題性自体が自然に変化するわけではない。 犯罪に至ったパーソナリティの問題、逸脱した性的衝動、認知のゆがみ、不適切な行動パターンなど、犯罪に関連する根本的な問題を修正しなければ、再犯のリスクは高いままだ。
現在刑務所などでは、認知行動療法という心理療法が実施されているが、それは再犯率を30ポイント程度下げる効果があることが明らかになっている。しかし、刑務所に入った全員が治療プログラムを受講できるわけではないし、出所すれば治療を受ける機会は閉ざされる。また、執行猶予や罰金で済んだものは、そもそも治療を受ける機会すらない。 ■治療サービスの拡充が効果的な対策 社会で、このような治療サービスを提供することは、刑務所で提供するよりも効果が大きいことがわかっている。したがって、DBSのような抑止的アプローチと組み合わせて、社会の中でこのような治療サービスを拡充することが、現時点でできる最も効果的な対策だ。
しかし、わが国には、性犯罪者を治療できる施設や専門家が圧倒的に不足している。したがって、DBSの実施に先立って、治療専門家の育成、治療施設の拡充などを進めることが喫緊の課題だ。 被害者の人権を守り、将来の被害を防止するために、将来的に加害の恐れがあるという理由で「かつての加害者」の人権に一部制限をかけることを許容するのが、このDBSという制度だ。 子ども安全を第一に置くことはもちろんだが、性犯罪を憎み恐れるあまり、感情的な大ナタを振りすぎないことも同じように重要だ。その大ナタは、逆に社会を傷つけてしまうかもしれないからだ。さまざまな方面からの慎重な議論を求めたい。
原田 隆之 :筑波大学教授