障がい者の“母”、緊急搬送されるも「子どもの介護をしないといけないから、手術を受けるわけには」…知られざる「障がい者支援の実情」
「子どもの介護をしないといけないから」自身の手術を拒んだ母
また、障がい者本人だけでなく、その親も同様に苦しんでいることが多いのが現状です。 知的障がい・身体障がいをもつ息子さんの介護を、1人で行う母がいました。その母親が救急車で運ばれ、すぐに手術をしなければいけない病状でしたが、母親は手術を拒否しました。「子どもの介護をしないといけないから、手術を受けるわけにはいかない」という理由です。 地域連携室から電話相談を受けた私は、すぐにその母親へ連絡しました。 「お母さん、お体は大丈夫ですか? 息子さんのことは、今日から短期入所が行えるように僕が手配をするので、今は自分自身の手術を優先にしてください。責任をもって、施設調整や支給量の変更を行政に掛け合いますので、入院をして体を治してください。お母さんに万が一のことがあった場合、息子さんが悲しむ結果だけでなく、そのあとの生活にも影響します」 このように説明と説得を行いました。すると、その母親は 「ありがとうございます。目の前のことしか考えていませんでした。入院をして1日でも早く治して退院します。無理を言いますが、息子のことをよろしくお願いします」 と言ってくれたので、私は病院に連絡をし、入院・手術の運びになりました。
しかし、入所先の調整には困難を極め…
長期間の短期入所(=ショートステイを長期間にわたって利用すること)となると、市町村に1つしかない障がい者支援施設から1ヵ月近くの短期入所先を探すのは、非常に困難を極めます。2泊3日などであれば対応できる施設はありますが、短期入所は、近隣の障がい者の方が利用をしているので、長期間の入所を確保するには、県内全域で探す必要があります。 当時も兵庫県内の20施設に問い合わせの電話をしましたが、「空き」はなく、焦る想いが募りました。 最初に電話相談を受けたのは15時半です。生活介護(デイサービスの利用が16時まで)なので、早急に息子さんの施設を決めて、送迎を行わなくてはなりませんでした。夕食の時間や引継ぎの時間などが必要だからです。 17時までに施設が決まらなければ、決まるまで自分の施設で受け入れができるよう、入所の課長と交渉を行おうと決めていました。 結局17時になっても決まらなかったため、入所の課長と相談を行い、1日だけ短期入所受け入れのための依頼を行いました。ベッドが空いていることは朝に把握をしており、緊急性があるため受け入れをしてくださいました。 しかし、翌日から他の方が短期入所の利用を行うため、何としても他の施設の受け入れの目途をつけなくてはいけません。1件ずつ、短期入所(ロング)の空きがあるかについて問い合わせを行いました。その中で電話をいただいたのが、神戸市内の施設です。 「短期入所先、まだ決まっていないですか?」 そう聞かれたので、「まだ決まっていません。1ヵ月はどこも厳しいです」とお伝えしました。 すると「以前、そちらの施設に難しいケースを受けていただいたこともあったので、調整を行い、うちで引き受けを行います。必要な情報をください」と言われたので、すぐに情報シートを送ると、受け入れを行ってくださいました。このケースの調整を完了したのが、23時になっていました。 その後、入院中の母にメールを送ると、安心をしてくれました。 このケースのように、短期入所、施設入所の緊急性がある調整の場合、困難を極めます。 また、良い情報も悪い情報も伝える必要があるので、なかなか決まらないことも多く、県外の施設になってしまうことも少なくはありません。近場の施設から探していきますが、どうしても空き状況があるため遠方になることもあります。 このケースでは1ヵ月後に無事に母親も退院し、本人も自宅に戻り、今も在宅生活を継続しています。