「医療はビジネスか、ボランティアか」大村氏ノーベル医学賞受賞から考える
「私は毎年2千種類以上の微生物を土壌サンプルから抽出して、その微生物がどのような物質を生み出しているかを調べている。有望な物質は保存して研究対象にしているが、科学研究にはお金がかかり一人ではできず、産業界でパートナーを探す。1970年代初頭、幸運にもメルク社と新たに共同研究を始めることができた。メルク社との共同研究を通じて、多くの興味深い物質を発見した。特にキャンベル氏が特定した、日本の土壌から発見した放線菌が生み出す物質エバメクチンは最も重要で、体内の寄生虫を殺すことができる世界初のものだった。イベルメクチンの研究は産学連携の先駆けとなった」(大村氏)。 一方、イベルメクチンの研究で大村氏とキャンベル氏がノーベル賞を受賞したことについて、メルク社の日本法人であるMSDの広報担当者は、「30年近くに渡る当社の歴史の中で、アフリカや南米の難病である河川盲目症の治療薬メクチザンの開発をめぐる、全ての関係者の疾病との戦いにおけるイノベーションと熱意を誇らしく思う。大村博士の貢献、キャンベル博士と当社の“人々を救う”という情熱がメクチザンの開発を可能にし、結果的に河川盲目症に苦しむ多くの人を救うことにつながったと考えている。当社はメクチザンの無償提供プログラムを通じて、30年近くにわたり河川盲目症に苦しむ人々に治療薬を提供してきた。これからも世界の健康課題の解決に向けて、科学とイノベーションの探究に専念していきたい」とコメント。 また、メルク社が新薬の無償提供という決断を行ったことについて、MSDの担当者は「創業者の子息ジョージ・W・メルクは、『医薬品は人々のためにあるのであり、利益のためにあるのではないことを決して忘れてはならない。どのようにすれば全ての人々に最良の医薬品を届けることができるだろうか。その答えを見出し、最高の成果を全人類にもたらすまでは休むことはできない』という言葉を残している。巨額の費用を投じて開発した新薬を無償配布することについては、開発費用の回収や患者に届ける流通ルートの確保など多くの懸念や課題があった。しかし、当社は創業理念に立ち返り“必要な人がいる限り、必要なだけ”メクチザンを無償提供することを決断し、WHOなどと協働して実現した」と説明しています。 イベルメクチンによる人類への貢献は、大村氏の探求心とキャンベル氏の熱意、メルク社の献身的な姿勢が三位一体となって実現したものだと言えるのです。