なぜユニクロの柳井氏は「ウイグル綿花問題」を語ったのか 中国で炎上しても、“あえて”発言した理由
グループ全体で10兆円を目指す
先ほど紹介したように2024年8月期、欧州で大躍進した結果、ユニクロはグループ全体で初の売り上げ3兆円を突破した。しかし、柳井会長の野望はこれで終わらない。決算会見の場で、毎年5000億円ずつ売り上げを伸ばして、いずれ10兆円を目指すと宣言したのである。 なぜこんな強気な目標が立てられるのか。「欧州」の存在である。 日本のインバウンドにもいえることだが、欧州の消費者は購買力が高い。それは欧州ユニクロの売り上げを見ても明らかだ。 欧州には2024年8月末時点で76の店舗がある。売り上げ高は2765億円なので、1店舗当たり36億円稼いでいることになる。一方、日本は797店舗で売り上げ高が9322億円なので、1店舗当たり11億円。「稼ぐ力」が3倍以上なのだ。 実際、2023年9月~24年2月期の間で、ユニクロ店舗(全世界)の売り上げ高ランキングを見ると、トップ10の中に欧州店舗が4つも入っている。 つまり、このまま「稼ぐ力」のある欧州ユニクロが順調に成長して、ZARAやH&Mなどのポジションを奪うことができれば、柳井会長が掲げる売り上げ10兆円も夢ではないということなのだ。
成長の足かせになる大きなリスク
しかし、この中長期ビジョンには大きなリスクが一つある。ここまでいえばもうお分かりだろう。そう、「新疆ウイグル自治区の綿花」である。 先ほど紹介したように、この人権問題は西側諸国のメディアが火付け役であり、西側諸国の消費者も人権問題への関心が非常に高い。欧州で確固たる地位を築くには、これまでのような「ノーコメント」では済まされない。強制労働でつくられたファッションという疑いの目で見られたら、積み上げてきたブランドイメージは一気に地に落ちる。それどころか商売自体ができなくなる恐れもある。 欧州連合(EU)の欧州議会とEU理事会は2024年3月、強制労働によって生産された製品の流通や輸入を禁止する規制案を3年後からスタートすることで暫定合意している。EU圏内の企業は、人権問題に対処するように義務付けられるのだ。もちろん、これは「新疆ウイグル自治区の綿花」を念頭においたものであることはいうまでもない。 だから、柳井会長はこれまでは決して明言しなかった「新疆ウイグル自治区の綿花」に触れた。しかも、相手はお膝元である日本のメディアではなく、英国国営放送のBBCというのも分かりやすい。 BBCはウイグル問題を積極的に扱っていて、2021年にはウイグル族の女性たちが新疆ウイグル自治区の「再教育」施設で、組織的にレイプや性的虐待、拷問の被害に遭っていたと述べたインタビューを報じた。中国外務省は、BBCによる「虚偽の報道」だと非難した。 つまり、欧州市場に対して「ユニクロは中国の人権侵害に加担していないですよ」とアナウンスするには、これ以上の適任はないのである。