なぜユニクロの柳井氏は「ウイグル綿花問題」を語ったのか 中国で炎上しても、“あえて”発言した理由
一部で「闇堕ち」と揶揄されていた柳井会長
実はここ数年、柳井会長は一部メディアから「闇堕ち」なんて揶揄(やゆ)されるほど、悲観的なシナリオや、ネガティブな意見を述べることが多い。例えば、2022年10月の決算会見ではこんなことを言って、メディアを驚かせた。 「経済は本当にひどいですよね。もう、(政府も)小手先のおカネを配ることだけ。これは日本経済だけでなしに、社会全体が本当に悪い方向に行って、取り返しがつかないことが起こるんじゃないかと思う」 直近でも2024年8月、日本テレビの独占インタビューで、こんな発言をして大きな騒ぎになっている。 「少数精鋭で仕事するということを覚えないと日本人は滅びるんじゃないですか」 このようにメディアの前に出るたびに、自国への厳しいダメ出しをしていることを踏まえれば、今回もビジネスを忘れて後先考えず、中国の人権侵害についてつい批判的なことを口走ってしまった、というのだ。 もっともらしい話のような気もするが、企業トップのインタビュートレーニングなどをしてきた立場から言わせていただくと、それはちょっと違うのではないかと思う。 おそらく柳井会長は意図的にこの発言をした。つまり、意図的に「新疆ウイグル自治区の綿花を使っていない」発言をしたのではないか。
柳井会長の狙いは?
なぜそう考えるのかというと、ユニクロの今後の成長シナリオや同社をとりまく競合の動向などを踏まえたら、このタイミングで「新疆ウイグル自治区の綿花」問題をクリアにしておくことが、どう考えても「ベスト」な経営判断だからだ。 「はあ? 中国で不買運動が起きてベストもへったくれもあるか、失言だよ、失言」と思うだろうが、それは「中国市場」しか見ていない結論だ。 実は今、ユニクロが成長していくうえで中国と同じくらい、いや、場合によってはそれ以上に力を入れている市場がある。欧州だ。 2024年8月期の連結決算で、欧州事業は「異常」なほど急成長している。売り上げ高は前期比+44.5%の2765億円、営業利益は同+70.1%の465億円である。これは円安だなんだという小手先の話ではなく、欧州の消費者の間で、ユニクロというブランドの価値が急上昇しているからだ。 きっかけは昨年、英国在住のインフルエンサーがユニクロのラウンドミニショルダーバッグを紹介したTikTokが話題を呼んだことで、EU圏でユニクロ人気が上昇。2024年4月、英国エディンバラに出した店舗は午前4時から約700人が開店を待った。 このようなユニクロブームについて、米国の経済誌『FORTUNE(フォーチュン)』は、コロナ禍のリモートワークからリアル出社に切り替わり、ファッションも仕事とプライベートの両面を意識しなくてはいけなくなった欧州のZ世代が、ユニクロを評価し始めたと分析している。 そんなブランド価値爆上がりの欧州は、これからユニクロが世界一のアパレル企業になるために必要不可欠なマーケットと見ているのだ。