「憧れの『田舎移住』はクソ! 東京へ戻りたい...」妻の「生理日」も夫婦の出身大学もダダ漏れ。「プライバシーゼロ」のヤバい共同体とは
地方創生・地方活性化対策の一環として「地方移住イベント」が注目されていることをご存知だろうか。県別にブースを設けるフェアや、複数の自治体が合同で行うイベント、企業と自治体がコラボする企画など、多様な催しが毎回活況を呈しているという。 「妻よ、家計を助けてくれ…」年収1000万円の夫が生活苦でギブ。専業妻に助けを求めた時に返ってきた「絶望を感じるひとこと」 危機管理コンサルタントの平塚俊樹氏は、若い世代の地方移住願望が高まっている理由についてこう指摘する。 「何かと不安が多い『現役世代』の中には、少しでも希望を持って快適な生活を送りたい、のどかな環境で育児したい、という考えから、地方移住を希望する人が増えているようです。 ただ、地方移住自体は意外とハードルが低いのですが、「定住」に繋がるかどうかは別問題。移住を希望される方は自分たちのニーズを最初に洗い出しておき、お試し移住をしてみたり、何度も候補地に足を運んだりして、慎重に移住先をお選びください」 今回は地方移住イベントを利用したのち、ある地方自治体に移住したという女性から、実際に現地で生活して痛感した苦労について話を聞いた。 「夫婦揃って在宅でWebデザインの仕事をしています。移住イベントを覗きに行ったのは、『俺らこういう仕事なんだし、家賃がクソ高い都内にいなくてもいいよね?』ってダンナが言い出したことがきっかけです」 こう話すのは34歳の東海林朋香さん(仮名)。24歳で結婚した大学の同級生の夫と4歳の娘さんとの3人暮らしである。 就職先を4年で退職後、在宅で仕事をしながら子どもをもうけてマイペースで暮らしてきた2人だが、都内の家賃や物価の高さには一貫して苦しめられた。 「移住フェアに行ったら、家賃は都内の3分の1以下の物件もザラ。夫は大工の息子でDIYが得意だし、こういう安いとこ借りてかっこよくリフォームするの面白そうだねって」 2人の目に留まったのは、夫の母の郷里に近い自治体だった。 「実は『2人目不妊』に悩んできたんですけど、3人は欲しいという目標があったので、移住補助金とかよりは、育児支援の手厚い土地に引っ越したかったんですね」 移住先として決めた町の人口は、わずか600人ほど。何度か通って理想の地であることを確信した夫婦は、自治体が運営する空き家バンクに登録し、リフォーム可能な賃貸の戸建てを契約した。 「家賃は4万円です。土地が170坪くらいあってめっちゃ広くて……。早速草を刈ってきれいにして、巨大なビニールプールを買って娘を遊ばせました」 静かな環境でのんびりと育児をしながら、生活費を抑えて仕事に精を出す。朋香さん夫婦が夢見ていた生活が実現したかに見えた。しかし…… 「衝撃的だったのがご近所です。人との『距離感』が完全におかしんですよ...」 移住前には『町内組』のお宅全てに挨拶に回り、好感触を得ていたという朋香さん。 「高齢夫婦やの老人の1人暮らし世帯が多いんですが、挨拶に行った時は皆さん『若い人が住んでくれて嬉しい』と優しく歓迎してくださって、誰にも不快感はなかったんです」 ところが、いざ生活を始めると田舎の驚くべき「情報網」や馴れ馴れし過ぎる「距離感」が見えてきた。 「ご挨拶に行った時は、ご主人しかいなかったある家の奥さんと、ゴミ捨て場でバッタリ会ったんです。『挨拶に来てくれたそうね、ありがとう』と言われ、そのあと『ご夫婦とも、お家でパソコンを使ってするお仕事なんでしょ?』といきなり聞かれました」 挨拶回りの時は、職業について一言も触れなかったし聞かれもしなかったのに、なぜそのオバさんが自分たちの仕事を知っているのか、朋香さんは少し怖くなった...。しかもこのオバさん、他にも朋香さん夫婦の「個人情報」をすでにあれこれ知っていたというのだ。 「義母の郷里が隣の市だということを知ってました。それに、夫と私の出身大学まで…。『〇〇大学っていえば、隣の町内の××さん家の次男も出てるはずよ』とか言い出すのでびっくりしちゃいました」 なぜ出身大学まで知っているのか、あまりの驚きで、聞くことすらできなかったという。しかも、近所のオバさんは、朋香さんがその謎について思いを巡らせる暇さえ与えなかった。 「一度立ち話をしただけなのに、その日の夕方には『朋香ちゃん!』と庭先で呼ばれ、畑で採れたという野菜を大量に持ってきてくれました。ありがたいんですが、明らかに育ちすぎた、余った風の野菜ばかり。 化け物みたいなキュウリとか、熟れすぎてぶよぶよになったトマトとか。それだけじゃありません。そのオバさんが何を言ったのか、近所の他の人たちも次から次へと同じ種類の野菜を食べきれない量、持ってくるようになりました...。『自分たちが食べる分だけ』自分たちで作るのが夢だったのに...」 しかも、野菜を持ってきてくれたほとんどの人が、ゴミ捨て場で会ったオバさんと同様、朋香さん夫婦の「個人情報」を知っていたという。 「個人情報が知られていた理由については、その後すぐに真相がわかりました。町内組で私たち家族の歓迎会をしてもらったのですが、その宴会の席で全てが判明したんです!」 件の宴会では、個人情報をリークしまくった犯人がわかっただけでなく、田舎の粘着質な寄り合いや、高年層の見苦しいセクハラ発言などが一度に披露されることになった。 そして、あろうことか、朋香さんの「生理周期」も知られていて...、憧れの地方移住を叶えた直後に若い夫婦を襲った危機の真相とは? 後編へ続く。 取材・文/中小林亜紀 写真/Getty Images