電源オンも再起動もBIOS操作も。完全リモートPCを1万円未満で叶える「NanoKVM」
筆者はめんどくさがり屋であり、どれくらいめんどくさがり屋かというと、特に何もない場所で「めんどくさ……」とぼやいてしまうレベルである。 【画像】筆者の現在の検証スペース。左側にはルーターやONU、プリンタなどが設置されている 筆者は検証用のスペースを普段過ごしている部屋とは別に用意しているのだが、ベンチマークテストを実施するときに画面に張り付いていることはせず、終わった頃を見計らって部屋の移動をしている。ただ、筆者はベンチマークの時間まで完全に把握しているわけではないため、 「おわったかな?(チラッ」 「まだ終わってなかった……」 の繰り返しの毎日である。この時点でもう「めんどくさいオーラ」全開である。 最近は特に寒さもあって、部屋の温度が低い。検証されるPCはうれしいかもしれないが、筆者は全然うれしくない。 ■ IP-KVMを導入 ということで、今回はその「めんどくさい」を解消するために、Sipeedが販売しているIP-KVMの「NanoKVM」を購入した。 ちなみにIP-KVMとは、映像出力のビデオ信号や、キーボード/マウスで使うUSB信号をIP化してネットワークで転送するハードウェアのことである。これを使えば、ネットワーク経由でPCが遠隔操作可能になる。 “Full”版と“Lite”版があるが、今回はFull版を購入。そして最近はPCIeが発売されたほか、今後はUSB版、DisplayPort版が発売されていくという。 こちらは同社の「LicheeRV Nano」と呼ばれる開発ボードをベースとした製品で、RISC-Vコアを採用しており、筆者の中では初のRISC-V採用製品となった。 類似製品としては、Raspberry Piを拡張する形で「PiKVM」が先行しているが、コストパフォーマンスを見ると、一体型のNanoKVMの方が優れている。 で、このNanoKVMで何ができるのかと言えば、主に ・HDMIの映像入力と転送 ・マウス、キーボードといったHIDデバイスの接続と転送 ・電源スイッチ、リセットスイッチの操作(Full版のみ) といった、まさに人間の目や手を使った操作をネットワーク経由で行なえるようになる。 これくらいならリモートデスクトップで良いのでは?思う読者もいるかもしれない。しかし、筆者の用途で言えば、BIOS(UEFI)画面の操作に対応できることや、ベンチマークを行なう上でスコアに影響が出ないところがポイントと言える。 注意したい点として、オーディオはサポートされていないということだ。あくまでも映像だけである。 ■ セットアップ 本機のポート類は ・電源のAUX(形状はUSB Type-C) ・映像入力のHDMI ・キーボード/マウスのHID(形状はUSB Type-C) ・フロントパネルスイッチのKVM-B(形状はUSB Type-C) ・2つのシリアルポート ・100MbpsのEthernet が搭載されている。USB Type-Cポートが3つ別機能として割り当てられているが、側面のシールを見ればどこに何を接続すれば良いか判別できるため、迷うことはないだろう。 電源については5V/0.2A(1W)あれば動くという。つまりUSB充電器であれば何でも良さそうということで、以前ドンキホーテにて10円で処分されていたIQOS用のUSB充電器を使用した。 Full版のみ付属するATX-Bボードをマザーボードのフロントパネルコネクタに取り付けることで、NanoKVM本体の電源投入、リセットボタンで操作が可能になる。 ■ 実際に使っていく ネットワークについては、特に何もしなければルーターのDHCPサーバーからIPアドレスが割り振られ、Full版であれば本体のOLED上にIPアドレスが表示される親切設計だ。 このアドレスをWebブラウザのURLに入力すればログイン画面が表示される。 自らインターネットの外に出て行くことはしないため、そのあたりが気になる読者も安心だ。外部からアクセスが必要な場合は別途ルーター等に搭載されているVPN機能を利用して自宅内のネットワークに入るか、Tailscale(WireGuardベースの分散型VPNサービス)を使用する必要がある。 ログイン後はリモートデスクトップと同じように操作が可能となる。 □電源とリセット 電源ボタンとリセットボタンについては、メニュー上から操作することができる。 電源が入ると電源ボタンのアイコンが緑色になり電源が入ったことが分かる。 ほかにもNanoKVM本体に物理的に搭載されている電源、リセットのボタンを使い起動させることもできる。 UIに関しても日本語の言語設定が有志により提供され、オフィシャルのファームウェアに内包されるようになった。日本語キーボードの全角/半角キーで日本語IMEのオン/オフも可能だ。そのため、ローカライズまわりについては現状問題ない水準と言えるだろう。 □解像度 気になる映像まわりだが、解像度はフルHDの1,920×1,080ドットまで。自動がデフォルトで適用されている。こちらは自動のままで良いだろう。4K解像度など高解像度環境には対応しない。 □ビデオモード・品質 ビデオモードはH.264とMJPEGの2つから選べる。リリース当初はMJPEGしかなかったのだが、より効率の良くなったH.264が設定できるようになった。 品質については「ロスレス」、「高い」、「中くらい」、「低い」の4つから選べる。 ビデオモードはどちらを選択するべきかと言えば、画質についてはMJPEGの方が良い一方、通信量やフレームレートを重視する場合はH.264が良いだろう。 H.264設定のロスレスだが、ロスがないわけではなく圧縮されており、動きの速い場面ではブロックノイズが目立つ。 □フレームレート フレームレートは「24Hz」、「30Hz」、「60Hz」の3つがプリセットで設定されている。今回はHz=fpsと考えていただければ問題ない。ほかにもカスタム設定でそれ以外のフレームレートも手動で入力可能だ。ただ、設定したからと言ってもそのフレームレートになるわけではなく、ハードウェアの性能の限界なのかフルHD設定の場合は60Hzでも20fps~30fpsに落ち着く。よって筆者に言わせれば何でも良いのだが、常用環境では30Hzで設定している。 検証としてFF14ベンチマークを開始~終了まで動作させるとMJPEGの場合、画質ロスレスの60Hz時の通信は平均で64Mbpsとなる。モバイル通信をしている場合はパケット通信量が気になってしまいそうなレベルだ。 続いてH.264の場合は同じく画質ロスレスの60Hz時の通信は平均で2.5Mbpsとなる。また、画質を低いにして30Hzモードに抑えれば1.4Mbps程度になる。これであればモバイル回線でも安心だろう。よって常用するのであればH.264がおすすめだ。 ■ 仮想ディスク機能 ほかにもNanoKVMには仮想ディスク機能が搭載されている。 こちらは、NanoKVMに内蔵されている32GBのmicroSDカードの中の21GB分のスペースをリムーバブルディスクとして認識させることができる。これにより、必要となるドライバ類を格納しておけば繰り返しのOSセットアップでも便利な上、ISOイメージを格納しておけば仮想CD/DVDとして認識されるためブートさせることも可能だ。ただしISOイメージをマウントした場合、仮想ディスク機能は一時的に無効になる。 とても便利な機能ではあるのだが、USB 2.0での転送になるため、速度が遅いという欠点もある。 ファイルのアップロードは ・USB接続で書き込み ・SCP接続で書き込み ・直接microSDに書き込み の3種類の方法がある。 筆者はネットワーク経由のSCPでファイルを書き込むことにしているが、速度としては単一のイメージファイルを転送しても2MB/sといったところだ。正直下手なUSB 2.0のUSBフラッシュメモリよりも書き込み速度は遅い。 SCP接続で気をつけたいところは、実質NASのように扱えるように見えるところだ。ファイルを転送しても、一度取り外し処理をして認識し直さない限り、追加したファイルが見えない。トラブル防止のためにも、SCP接続をしているときは仮想ディスク機能をオフにしておくと良いだろう。 ■ あると便利なHDMIスプリッタ NanoKVMはHDMIの入力はあっても、そのHDMIをパススルーすることはできない。 筆者はリモート以外でも操作がしたいため、HDMIスプリッターを使いPCからのHDMI出力をディスプレイとNanoKVMに同時出力をしている。 HDMIスプリッターは今回Amazonで購入したが、見た目が同じ製品で溢れている現状だ。同じ見た目でもオーディオをサポートしているタイプとサポートしていないタイプが混じっているようで気をつけたい。 筆者としてはNanoKVMだけであればオーディオは不要なのだが、物理的に接続しているディスプレイからは音を出したいこともありオーディオ対応のタイプを購入した。 ■ フリーズすることもある 実際にしばらく使っていると、フリーズしてしまうことが「そこそこある」。 ・画面が完全に止まっている状態 ・HID(キーボードとマウス操作)ができなくなる状態 と大まかに2種類の症状に遭遇することが多い。 こうなってしまうとリモートでの操作はできなくなるため、ダッシュで家へ帰る必要があるの……と言えばそうでもない。NanoKVM自体を再起動すれば再び操作できるようになる。 方法としてはターミナルからNanoKVMターミナルを起動し、rebootと入力するだけだ。 これでNanoKVMが再起動される。ISOイメージをマウントしている場合は強制的に解除されるため注意しよう。 ■ 検証用にはかなり使える!次は遠隔地のPC管理でもう1台 というわけで筆者の検証用としてのNanoKVMは、まだ発展途上な所も見受けられるが現段階で検証用としては十分使えることがわかった。 もう「待つだけのベンチマークテスト」で場所に縛られる必要がないため、優雅にカフェでベンチマークをするというのもアリなのかもしれない。ネットワーク管理者に人気の本製品だが、使い道はいろいろありそうだ。 また、筆者は2拠点で生活をしている現状、遠隔地で常時起動中のPCがフリーズしていると筆者の親に助けを求めることがあったが、NanoKVMがあればそのようなことからも解放されるだろう。この記事を書いている途中に注文を完了した。追いNanoKVMである。 最後に、気になる入手方法だが、日本からはメーカー直販、もしくはAliExpressから入手ができる。 ・メーカー直販の場合は NanoKVM Full 1台で53ドル+送料5USドルで合計58ドル(約9,100円)。支払いはPayPalで行なう。 ・AliExpressの場合は NanoKVM Full 1台で7,969円+送料910円で合計8,879円(2024年12月23日執筆時点)。 筆者が購入した時はメーカー直販から購入した方が若干安かったが、現在は価格差もなく便利なAliExpressの方が良いだろう。ただ、NanoKVMのPCIe版など、新しい製品に興味がある場合は直販で購入する必要がある。
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