「認知症の症状ばかり見て、母自身を見ていなかったことに反省した」。認知症の母、ダウン症の姉、酔っ払いの父と暮らす、にしおかすみこさんの“2年目”
「父にブチ切れた日」で一線を越えた理由
――夫婦喧嘩というと、今回は“お父さまがお母さまに傷の残らない暴力を振るったこと”も書かれています。どんな心境でこの言葉を添えたのでしょうか。 (中略)父はこちらに背を向け、母が窓際へと追い詰められていた。ジジイが、泣いているババアの頭をまるでハンバーグのタネの空気を抜くように、左手から右手へ、右手から左手へと弄ぶように揺さぶっている。傷の残らない暴力。この人のやり方だ。起き上がりこぼしのような母は、バランスを崩しながらも懸命に猫パンチと猫キックで応戦している。そして僅かな声で「こんにゃろ、こんにゃろめ」と。目を瞑り、ひとつもどこにも当たっていない。 私の一線が切れた。 「てめえええ! 何しやがる! クソがああ! 警察呼ぶぞ!」 ハッとした顔でジジイが振り返り、サッと手を引っ込める。 ――『ポンコツ一家2年目』よりにしおか:現在、家族は生きていますし、尊厳もあるし、個人情報をどこまで出すかのさじ加減はいつも迷います。家族が生きにくくなるのは嫌です。世に出すと決めても、それが正しいのかどうかもわかりません。ただ一個一個よく考え、後悔のないようにと思って書いています。
にしおか すみこ