「火星の生命」の証拠かもしれない岩石を「パーサヴィアランス」が発見
この大きさが約1m×0.6mある岩石は、アメリカのグランドキャニオンにある滝に因んで「チェヤヴァ・フォールズ(Cheyava Falls)」という愛称が付けられました。同年7月21日にドリルによるコアサンプルの採集が行われ、その後の数日間でコアサンプル及び岩石の表面を削った部分の分析が行われました。 パーサヴィアランスの紫外線ラマン分光計「SHERLOC」による分析では、チェヤヴァ・フォールズには有機化合物が含まれていることが分かりました。水が流れた場所での有機化合物の検出は生命を予感させますが、有機化合物は生命とは関係のない化学反応で生成されることもあるため、これだけでは生命の証拠としては不十分であると言えます。
■ヒョウ柄の斑点は生命のエネルギー源の痕跡か?
しかし、チェヤヴァ・フォールズには他にも興味深い物質が含まれています。まず、岩石全体を白っぽい硫酸カルシウムの脈が走っています。この脈の間には、火星の赤い外観の原因である赤鉄鉱(ヘマタイト)と思われる赤っぽい物質が含まれています。この赤っぽい部分にはミリメートルサイズの不規則な形をしたオフホワイトの斑点があり、さらにこの斑点は、ヒョウ柄に例えられている黒い物質で囲まれています。 パーサヴィアランスの蛍光X線分析装置「PIXL」がこの黒い物質を調べたところ、鉄とリン酸が含まれていることを突き止めました。科学チームはこの点に驚かされています。このような組成を持つ斑点は、地球では主に陸上の堆積岩で見られ、地表より下にいる微生物の活動と関連付けられているからです。 地球の堆積岩で起こる反応では、岩石に含まれる赤鉄鉱が化学反応によって赤から白っぽい色へと変化する過程で、白っぽい部分から鉄とリン酸が放出され、黒っぽい色に変色する化学反応も生じます。この時に発生するエネルギーは、微生物の活動の源ともなります。 有機化合物が見つかった場所で、微生物の活動の痕跡と似た構造が見つかるのはとても興味深いですが、生命が関与しない形でチェヤヴァ・フォールズに見られる構造が生じるルートも考えられます。まず、有機化合物を含んだ泥が堆積し、やがて堆積岩となります。その後、岩石の亀裂に硫酸カルシウムを含む流体が流れ込み、隙間を埋める形で硫酸カルシウムが成長すれば、現在のチェヤヴァ・フォールズのような構造の岩石が生じます。このため、チェヤヴァ・フォールズはかつての生命の存在の証拠であるかもしれませんが、確定的に言うことはできません。