「火星の生命」の証拠かもしれない岩石を「パーサヴィアランス」が発見
チェヤヴァ・フォールズには他にも謎があります。それはミリメートルサイズのカンラン石(橄欖石)の結晶が含まれていることです。カンラン石は高温のマグマから生じる鉱物であり、堆積岩の中では自然発生しません。真っ先に思いつく可能性は、ネレトヴァ渓谷のさらに上流側にマグマが固まってできた火成岩があり、川の流れで分離した結晶が泥と共に堆積し、固まったという説です。これならば、堆積岩に高温で生じる鉱物が含まれていてもおかしくはありません。 一方で、カンラン石が存在する理由は別にあるかもしれません。なぜなら、カンラン石や硫酸カルシウムは、どんな生命でも死滅してしまうほどの高温の物質が堆積岩へと混入した証拠かもしれないからです。そうなると、微生物の活動に関連付けられた黒い物質は、単に高温による非生物的な化学反応で生じたものかもしれません。チェヤヴァ・フォールズを生命の証拠だと主張するには、この大きな疑問に答える必要があります。 残念ながら、現段階ではこれ以上のことを語ることはできません。 “六輪の地質学者(six-wheeled geologist)” と例えられるほど多彩な分析装置を搭載しているパーサヴィアランスですが、それでも可能な科学的分析は手を尽くした状態となっています。
■これ以上の情報は “忍耐強く” 待つ必要がある
科学チームの1人であるカリフォルニア工科大学のKen Farley氏が「チェヤヴァ・フォールズはこれまでパーサヴィアランスが調査した岩石の中で、最も不可解で複雑、そして潜在的に重要な岩です(Cheyava Falls is the most puzzling, complex, and potentially important rock yet investigated by Perseverance)」と語っている通り、この岩石は極めて興味深い発見です。たとえ生命の証拠とはならないとしても、この複雑な構造の岩石には、火星の歴史に関する地質学的に重要な情報が含まれているでしょう。 いずれにしても、チェヤヴァ・フォールズから今以上の情報を引き出すには、地球にコアサンプルを持ち帰り、さらに詳しい分析を行う必要があります。NASAと欧州宇宙機関(ESA)は、火星で採集されたサンプルを地球へと持ち帰る「火星サンプルリターンミッション」を計画しており、パーサヴィアランスが採集したサンプルもこの計画の中に含まれています。 この計画が実現するまで、チェヤヴァ・フォールズを含む数十本のコアサンプルは、パーサヴィアランス本体の中に保管されます。そして私たちは、サンプルが地球へと届き、詳しい分析がされるまでは、パーサヴィアランス(日本語で「忍耐」の意味)の名が示すように “忍耐強く” 待つ必要があります。 Source Jet Propulsion Laboratory. “NASA’s Perseverance Rover Scientists Find Intriguing Mars Rock”. (NASA)
彩恵りり / sorae編集部