Z世代が辞めない意思疎通3カ条 「エモい・早い・わかりやすい」
一方で、「せっかく質問力を向上させたのに、部下から返事が返ってきた時の対応に悩んでいる」という上司も多いようです。そんな時、私が勧めているのが、「きっかけ」や「いつからか」を聞くこと。以前、私は部下から「あるVTuber(ブイチューバー)が好きだ」と名前を言われましたが、私は知りませんでした。この時、「そのVTuberを私は知らないんだけど」と答えてしまうと、話が終わってしまいますよね。 そこで私は、こう尋ねました。「ファンになったきっかけは?」「いつ頃から好きなの?」と。つまり、自分の分かる話題になるまで話を深めていくのです。私は、この方法をよく使います。 話のきっかけづくりとしては、「『推し』を聞く」のもお勧めです。ただ「何が好きなの」と聞くより、「推しを教えて」と聞く方が、若手社員は肩の力を抜いて答えやすいようです。この手法は、問いかけのバリエーションを増やすためにも有効だと感じています。 ●「将来何をしたいか」をきちんと部下に聞くことが大切 コミュニケーションのコツの3つ目は、「ロジカルとエモーショナルの両面で語る準備をする」です。昨今、「パーパス(存在意義)経営」に大きな注目が集まっています。企業の理念やパーパス、ビジョン、ミッションなどを、上司は部下に普段、語っているでしょうか。 仕事のキャリアを考える上で必要な切り口、「Must(マスト:やらなければならないこと)」「Can(キャン:できること)」「Will(ウィル:やりたいこと)」は、皆さんもよくご存じでしょう。 「マスト」は仕事の上でよく語られるでしょうし、「キャン」も、自分の経歴も含めて語る上司が多くいる印象です。ところが、今後自分はどうしていきたいのかという「ウィル」を語る上司は少ないのではないでしょうか。これをぜひ語ってほしいのです。 その際にお勧めしたいのが、過去、現在、未来をつなげてエモーショナルに語るのに有効な「ストーリーテリング」という手法です。構成を「昔の自分の考え」「転換点」「今の自分の考え」「思い描く未来」とすると、うまく自分がやりたいことが語れるでしょう。 私を例に語ると次のようになります。昔の自分は「人材育成の最初の段階では厳しく指摘することが大切だ」と考えていました。そのため、新入社員研修などで指導する際は、緊張感を持って臨んでいました。 ところが、コロナ禍でオンライン研修が始まると、厳しい指導の効果が全くないことに気が付きます。画面の向こうで部下が何をしていても分かりません。恐怖で縛るコミュニケーションは時代遅れだと感じていたこともあり「今のやり方では無理がある」と痛感しました。その反省から、安心感と信頼関係を醸成するコミュニケーションを徹底したところ、その後の指導にも効果があると分かりました。 今では、教育や指導において、安心感や信頼関係が全ての土台になるという考えを持つようになりました。今後、私がやりたいことは、自分の人生の主導権を自分で握る人を増やすこと。そのために、人材育成の仕事に携わっています。 いかがでしょうか。このようにストーリーで語ると、聞き手は納得感を得やすくなります。上司の心の変化を伝えることは、部下に対して「心の変化を起こしてほしい」というメッセージにもなるでしょう。 私は「上司が変われば部下は変わる」と信じています。今、部下とのコミュニケーションが思うようにいっていないと感じる方は、改めて自分を俯瞰(ふかん)してみて、自分が変えられるところから変えてみてください。その少しの変化が、必ず良い変化を生み出すきっかけになるはずです。 (構成 橋本史郎) 井上 洋市朗(いのうえ・よういちろう) カイラボ代表取締役 企業の早期離職防止コンサルティングを中心に、管理職育成、OJT担当者育成、人事力強化支援などを手掛ける。新卒入社後3年以内の退職者へのインタビューをまとめた『早期離職白書』を発行している。研修・講演機会も多く、年間登壇件数は約120件。YouTubeの自社チャンネルからも情報を発信している
Yoichiro Inoue