藤本壮介が手がけた太宰府天満宮仮殿へ。1000年の歴史を次代へつなぐ
御祭神・菅原道真公が太宰府の地で薨去(こうきょ)してから1125年の節目にあたる「菅原道真公1125年 太宰府天満宮式年大祭」を2027年に控える太宰府天満宮。その重要文化財「御本殿」が124年ぶりの大改修のため、23年5月より「仮殿」で参拝者を迎えている。この仮殿の設計を担当したのが、建築家・藤本壮介だ。 藤本は1971年北海道生まれ。東京大学卒業後、2000年に藤本壮介建築設計事務所を設立した。14年には《ラルブル・ブラン(白い樹)》でフランス・モンペリエ国際設計競技の最優秀賞を受賞。以降、15年、17年、18年にもヨーロッパ各国の国際設計競技で最優秀賞を受賞してきた。 主な作品は、《House N》(2008、大分)、《武蔵野美術大学・図書館》(2010、東京)、《House NA》(2011、東京)、《サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン 2013》(2013、ロンドン)、《白井屋ホテル》(2020、群馬)、《石巻市複合文化施設》(2021、宮城)、《ハンガリー音楽の家》(2021、ブダペスト)など。また2025年の大阪・関西万博の会場デザインプロデューサーを務めており、注目を集めている。 仮殿は3年という期間限定の建築だ。伝統を引き継ぐためにはその時々の最先端を試みないといけない、という西高辻信宏宮司の考えから、藤本に声がかかったという。 1000年という長い歴史の一端を担うことになった藤本だが、神社の建築を手がけたのは今回が初。「緑豊かな環境そのものが太宰府を特別なものにしている。それを見据えれば相応しいものになると考えた。仮殿は御本殿の手前に位置しており、現代建築がいかに伝統建築と共存できるかが大きなチャレンジだった」と振り返る。 仮殿のデザイン検討はコロナ禍中から始まり、様々なパターンが試行錯誤された。「藤本壮介展―太宰府天満宮仮殿の軌跡―」(2024年8月10日~2025年8月31日)では、球体のもの、キューブ状のもの、大屋根をかけるもの、フレーム状のものなど、あらゆる可能性が検討された形跡を見ることができる。 半円のように柔らかな曲線を描く屋根には、最先端の屋上緑化技術が駆使され、天満宮ゆかりの梅の木をはじめとする60種類以上、21本の木と下草が植えられた。植物たちは四季折々に姿を変え、境内周囲の豊かな緑と調和する。これは、日本の伝統建築で見られる檜皮葺や茅葺など「生きている屋根」ともリンクするものだ。また屋根は手前に傾斜がつけられており、参拝者が楼門をくぐり抜けるシークエンスの中で、まるで森が浮いているかのようなイメージを与える。 いっぽう仮殿内部の斎場は黒で統一されており、伝統的な装飾品や装束が浮き上がるようにデザイン。奉納された御帳(みとばり)や几帳(きちょう)はMame Kurogouchiを率いる黒河内真衣子が、音響監修はサカナクションの山口一郎率いる株式会社NFが、照明は面出薫率いる株式会社ライティング プランナーズ アソシエーツが手がけるなど、異彩を放つ空間だ。 この仮殿が役目を終えたあと、屋根の植栽は境内に移植され、仮殿の記憶を引き継ぎ、次の1000年を生きることになる。
文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)