病魔に倒れ、ひらがなが分からなくなった「鎌倉のカレー女王」 それでもコロナ禍で売り上げを伸ばす手腕とは
◆コロナ禍、業績がアップした理由は世相
----近年もコロナ禍にありながら業績が伸び、年間売上高は2億5千万円に達していますが、要因は何でしょうか? コロナ禍の外出自粛期間中、「外食できない分、普段よりちょっと良いものを食べよう」となった人が多くいたことが大きいと思います。 当社の、ひと味違う「カレールー」を手に取ってくれた人たちが、リピートしてくれているようです。 また、コロナ禍以降に、消費者の健康志向が高まったことも大きいです。 ニーズに合わせて、グルテンフリーカレーや薬膳カレーの発売を始めました。 薬膳カレーは、「3日で開発して!」という私の無茶ぶりに弟が見事に応えてくれて完成した商品です。 これは現在の当社の10種類のカレールーのうち、売り上げシェア率23%を占めるヒット商品となりました。 ----これからの経営戦略を聞かせてください。 レトルト商品の開発も積極的にやっていきたいと考えています。 それと海外展開ですね。 今、日本食は海外からすごく注目を集めています。 とくに海外は健康志向の強い方が多いので、チャンスがあればどんどん展開していくつもりです。 すでにアメリカやイギリス、フランス、台湾などの国で展示会を開催しています。 あとは、当社のルーツであるレストラン「太平洋」を復活させたいですね。 鎌倉はインバウンドの影響で、地価や物価が高くなって苦戦していますが、3年以内に実現したいと考えています。 ----将来の事業承継についてビジョンはありますか? いずれ私が会長になり、社長を弟に任せたいのですが、若い人材がいないと会社を成長させていくことはできません。 だからいずれは、今は別の会社に勤務している24歳の長男に承継したいと思っています。 本人も継ぐつもりがあるようで、子どもの頃から料理が好きでもあるので、新たなヒット商品を生み出してくれるかと思います。 私の家の歴史を遡ると、江戸時代は寿司屋や江戸城に魚を卸しており、代々ずっと食に関わってきた家系です。 時代のニーズに合わせて先進的にチャレンジすることももちろん大切ですが、エム・トゥ・エムの根底にあるのは黒田家の血。 先祖が歩んできた歴史をこれからも受け継いでいってほしいですね。 そして承継した後は、従業員を大切にしてほしいと思います。 消費者も大切ですが、消費者を喜ばせるには、まず有能な従業員が必要です。 だから、従業員は一番大切にしなければいけません。 もちろん、望まない承継をするつもりはありません。 子どもには子どもの人生がありますから、自分の意思で自由に人生を歩んでほしいと考えています。
■プロフィール
株式会社エム・トゥ・エム 代表取締役 伊藤 眞代 氏 1970年、神奈川県鎌倉市生まれ。保険会社の営業職として活躍していたが、1億5000万円の負債を抱えて経営不振に陥った家業を救うべく、28歳の若さで代表取締役に就任。「老舗の洋食屋の味をご家庭で味わっていただきたい」という思いと、安心・安全な商品開発で多くのヒット商品を世に送り出す。業績を急回復させ、2021年に鎌倉の地に自社工場を建設し、「鎌倉のカレー女王」と呼ばれるようになる。