抽象表現の可能性を広げる13点の絵画。ウェイド・ガイトンの個展が表参道のエスパス ルイ・ヴィトン東京で開幕
ウェイド・ガイトンの日本初個展「THIRTEEN PAINTINGS」が開幕
エスパス ルイ・ヴィトン東京にて、アメリカ・インディアナ州出身のアーティスト、ウェイド・ガイトンの個展「THIRTEEN PAINTINGS」が開催される。会期は10月31日~2025年3月16日。 本展はフォンダシオン ルイ・ヴィトンの所蔵コレクションを東京、ミュンヘン、ヴェネチア、北京、ソウル、大阪のエスパス ルイ・ヴィトンにて展示する「Hors-les-murs(壁を越えて)」プログラムの一環。 ウェイド・ガイトンは1972年アメリカ・インディアナ州ハモンド生まれ。伝統的な絵画の形式に現代のデジタル技術を組み合わせた独自の印刷技法で広く知られている。創作に用いるメディアと素材は、写真や彫刻、映像、書籍、紙に描いたドローイングなど多岐にわたる。デジタル時代におけるイメージの考察と制作に取り組むアーティスト世代のなかで、最も影響力のあるアーティストのひとりである。 アーティストにとって初の日本での展覧会となる本展では、フォンダシオン ルイ・ヴィトンの所蔵作品から2022年に制作された13点の大判絵画からなる《Untitled》(2022)を世界初公開。
作家による作品解説
ガイトンの作品は、絵画の伝統的な構造や視覚言語を引き継ぎながらも、従来の手法や様式を大きく改変している。エプソンの大型インクジェットプリンターでキャンバス布を半分に折って通し、裏返して印刷を重ねるという実験的なプロセスがその特徴だ。モチーフや文字を何度も重ねる過程で生じるエラーやインクの液垂れやミスプリントが、画面全体に広がる構成要素となり、唯一無二の表現を作り出している。 プレスプレビューに登壇したガイトンは以下のようにコメントしている。 「写真は自分の表現の一部であり、普段はフォトプリンターを使っています。しかし、自分のことを写真家、あるいは画家だと思っていません。むしろ、自分の作品は写真や絵画のカテゴリーに属せず、その間を行ったり来たりしていると思います」 本展の題材は、ガイトンが日々制作に取り組むアトリエで撮影した写真や床に置かれたキャンバス、『ニューヨーク・タイムズ』のウェブサイトのスクリーンショット、ビットマップデータから滴るインクなどのイメージが中心。制作途中の絵画も映り込み、複数のイメージが重なり合うレイヤーが構築されている。目を引く抽象的な表現もまた、ガイトンの過去作を拡大して作られたものだ。 特徴的な展示構成についてガイトンは、「展覧会を企画する際、会場の建築や空間にはつねに気を配っています。空間が作品に影響を与えることもよくあるからです。今回の作品は2022年に制作したものですが、この空間での展示が決まったときに、まず注目したのは大きな窓でした。ニューヨークの風景が絵画のなかに映り込むいっぽうで、窓越しには日本の風景が広がり、絵画と絵画の間にある外の景色までもが、観客が体験するイメージの一部になれると思いました」と説明。 通常はアトリエで重ねた状態で保管されている作品が、ひとつひとつがしっかりと見えるかたちで展示されているのは、日本での初個展に合わせた特別な試みだという。「『スタック』された状態で展示する案も考えられたが、今回はあえてその全貌をじっくりと見てほしい」と作家。13枚という数にも意味があり、重ねる際に大きすぎず小さすぎず、ちょうど良いバランスが取れる枚数なのだ。作家自身にとっても挑戦となる今回の試みに、ぜひ注目したい。
Alena Heiß