「美しき柔道」を支え続けてきた柔道衣の老舗・九櫻(くざくら)のこだわりとオンリーワンの技術
柔道衣の規定確立に生きた知見
節目節目で柔道衣のアップデートに関わってきた九櫻。2014年には柔道衣の規定が確立されるが、ここにも同社は深くかかわっている。 柔道の国際化が進むにつれて、オリンピックや世界選手権では一本勝ちを狙わず、判定に持ち込もうとする消極的な戦術が幅を利かすようになった。海外選手の中には、相手につかまれないようにするため、襟を硬くした柔道衣や袖を細くした柔道衣を着用する選手も出てきた。柔道衣には細かな規定がなく、ほとんどやったもの勝ちの状態。こうした柔道衣のほとんどが、人件費の安いパキスタンで製造されていた。 これでは果敢に一本を取り合う、本物の柔道が廃れてしまう。 危機感を募らせたIJF(国際柔道連盟)は2014年、柔道衣に規定を設けようと動き出す。ここで彼らが頼りにしたのが、長年優れた柔道衣を作ってきた九櫻だった。 「弊社はIJFに依頼されて14年の規定確立にかかわり、その後もオリンピックが行われるたびに、規定の見直しに携わってきました。14年には襟の幅や襟を二つ折りした時の厚さが決められ、また道着1平方メートル当たりの生地の重さや生地の引っ張り強度が定められました。新規定の生地の重さは1平方メートル当たり750g。綿100%でできていた当時の柔道衣は、規定よりかなり重かったので、IJFは綿70%、ポリエステル30%の生地にすることを決めます。これによって柔道衣は軽くなり、同時に強度を増すことになりました」 公平さとエキサイティングな試合を担保するため、このときIJFがモデルにしたのが九櫻の柔道衣。100年の歴史を誇る同社の知見が、柔道衣に生かされているのだ。 IJFが公認するメーカーは現在15社あり、だれもが知る世界的なスポーツメーカーも少なくない。規模だけを見れば九櫻はかなり小規模だが、柔道衣ひと筋といってもいい同社には、他社にはない大きなアドバンテージがある。 三浦社長が自信を持って語る。 「生地の織布から製品化まで一貫して行っているのはウチだけ。世界でもオンリーワンです」 公認メーカーの柔道衣は、すべてメイド・イン・パキスタン。九櫻も学校正課用などの廉価版はパキスタンで生産しているが、競技者向けのハイエンドな柔道衣は、すべて自社で生産している。ちなみにIFJが国際大会に向けて審判講習会を行う時、受講者たちは九櫻の柔道衣を着ることが慣習になっている。それもまた、同社のクオリティのよさを物語る事例といっていい。