楽天マー君の開幕第2戦起用は”落合采配”に重なるV戦略?!
試合後、石井監督は、開幕投手、そして田中の登板日を発表するというサプライズを用意していた。開幕は3年ぶり10度目の栄誉となる涌井。第2戦が田中だという。 昨季金銭トレードでロッテから移籍してきた涌井は、ソフトバンクの千賀、石川と並ぶ最多勝タイトルとなる11勝4敗、防御率3.60の成績を残して存在感を示した。則本が不調で、岸も出遅れた先発投手陣の中でエースのポジションを確立。三木前監督も「すべてにおいて若手の手本になる選手。いい影響をチームに与えてくれている」と評価していた。 てっきりヤンキースの7年間で4度の開幕投手を務めたことのあるマー君が開幕投手に抜擢されるものだと考えていたファンも少なくなかったはずだが、石井監督は、あえて移籍1年目に実績を作った涌井を開幕に立て、マー君を第2戦に持ってきた。 石井監督のマー君の第2戦起用理由はふたつある。 ひとつは3月27日の対日ハム第2戦の土曜日は、金曜日のナイター明けのデーゲームとなり、調整が難しい曜日であること。だからこそメジャーの厳しい環境を投げ抜いてきたマー君をそこに当てる。石井監督は、田中を中6日で回す構想を固めているようで、その先の登板予定となる4月3日のオリックス戦、10日のソフトバンク戦、17日の日ハム戦、24日の西武戦は、いずれも前日ナイターからの14時スタートのデーゲームとなっている。 そして、もうひとつの理由が「涌井で勝って田中で勝って3連戦を勝ち越すことを理想としている」というものだ。 マー君の“開幕外し”で、重なるのが2004年にセ・リーグの頂点を極めた落合野球である。
この年から中日の新監督に就任した落合氏は、開幕投手候補だった川上、野口茂樹、山本昌らをあえて開幕から外し、FA移籍後、1勝もしていなかった川崎を指名、野口を第2戦、川上を第3戦に配置したのである。FA移籍後、3年間、肩の故障もあり結果を出せていなかった川崎の奮起を促す意味を込めた起用と、そしてなにより真のエースだった川上を相手のエースとのマッチアップを外し、3番手に置き、そこで確実に勝たせるというシーズンをトータルで考えてのしたたかな戦略があった。落合監督は、“連敗しても必ず川上で止めてカード3連敗を避ける”という意味で第3戦を重要視していた。 前年度は4月に4勝を挙げて月間MVPに選ばれながらも肩を痛めて、その後、投げることのできなかった川上は、プレッシャーの少ないローテー3番手の位置でシーズンを投げ切って完全復活。落合監督の計算通りに、この年、17勝7敗で貯金を「10」も稼ぎ、リーグMVP、沢村賞、最多勝、ベストナイン、最優秀バッテリー賞などの賞を総なめにしてチームのリーグ優勝を牽引した。 パ・リーグの野球に詳しい元阪神、ダイエー(現ソフトバンク)、ヤクルトの評論家、池田親興氏は、この田中第2戦戦略を支持する。 「マー君は開幕を外した方が正解だと思っていた。復活にかける則本を開幕にすれば面白いとも考えていたが、昨年の勝ち頭である涌井のプライドを尊重して開幕を任せ、ただでさえ注目を集めている田中のプレッシャーを軽減させ、第2戦に配置したのは、よく考えられた采配だと思う。17年前に中日時代の落合監督がエースの川上を開幕からずらし相手のエースとの対戦を避けて一人で2桁の貯金を作って優勝につなげたが、田中が、今年ローテー2番手の位置で、その役割を果たせば、間違いなくパ・リーグの優勝争いを抜け出しソフトバンクの対抗馬に浮上するでしょう」 田中はメジャーに旅立つ前の楽天のラストシーズンとなる2013年に24勝0敗の驚異の成績を残してチーム日本一の原動力になった。実は、この年も田中がWBCメンバーに選ばれていたため、星野仙一監督がマー君を先発起用したのは、開幕第4戦目だった。 偶発的に裏ローテーの頭で回った田中は、相手エースとのマッチアップを避けることになり24個もの貯金を稼いでいたのである。