「大学に合格できなくても、あなたのせいではないよ」 人気スタイリストから娘へ、一通の手紙
息子からのハグと「ありがとう」
――信じて見守るのは、とても難しいことではないですか。 そうですね。でも、ここぞというところで手紙を書きました。娘、息子にそれぞれ一通ずつしか書いていないのですが、これはすごく効果があった気がします。 ――LINEでもメールでもなく、手書きの手紙というのがいいですね。どのようなことを書いたのですか。 長女には、受験勉強で疲れ切っているときに渡しました。当時の彼女は、もうこれ以上は勉強できないだろうというぐらいこ一日中努力していました。だから彼女が楽になれるようにという気持ちを込めて、「ここまでやって合格できなかったら、それはあなたのせいではないよ」ということを書きました。「AO入試で合格できなければ、一般入試を受けてもいいし、そこまで自分を追い詰めなくていいんじゃない?」と。 息子に手紙を書いたのは、受験が迫った年末です。あれ、もしかしてちょっと気持ちが緩んでない?と思ったタイミングですね。彼もアメリカ留学の期間中、孤独を味わったり、ケガをしたり、いろいろあったので、「大変なこともあったけど、ここまで頑張ってきたあなたなら最後までやりきれるよ」と書きました。 ――手紙を読んだ2人の反応はどうでしたか。 手紙については何も言われませんでしたが、長女は受験が終わったときに「最後まで信じてくれてありがとう」と言ってくれました。うれしかったですね。息子の場合は、受験後のあるとき、ベッドリネンを洗濯しようとしたら、枕の下から私の手紙が出てきて驚きました。お守りのように感じてくれていたのかもしれません。 ――それは感動しますね。息子さんは宝物みたいに大事にして、心の支えにしたんですね。何か言葉はありましたか。 大学入学共通テストが終わった後に、これから受ける私立大の出願書類を書いたり、受験日程の確認をしたりしながら、2人でご飯を食べていたときのことです。息子は、やりきったんだろうな、という顔をしていました。部屋を出るときに、「本当にありがとう」と言って、ハグをしてくれました。でも、あれは何に対する「ありがとう」だったんだろう……。「好きなようにさせてくれてありがとう」なのか、「信じてくれてありがとう」なのか、ちょっとわからないですけど(笑)。 ――それは親として、本当にうれしい瞬間ですね。まだ合格をする前にそんなことが言えるなんて、息子さんはすごいですね。 その言葉を聞いてなんとなく「あっ、この子はこの先もう大丈夫だ」と感じました。結果がどうあれ、一人で生きていけるな、と感じました。大学受験は、子どもたちが自分の力で人生を歩んでいけるかどうか、好きなことを見つけて楽しく生きていけるかどうかを親が確認する機会でもある気がします。そういう意味では、受験を一緒に乗り切れたことは、私にとってもいい経験になったと思います。
プロフィール
大草直子(おおくさ・なおこ)/ファッションエディター。東京生まれ。立教大学卒業後、出版社でファッション誌の編集に携わる。独立後は編集者、スタイリストとして活動し、洗練されたスタイリングと飾らない人柄が、多くの女性から支持を集める。現在は2019年に立ち上げたウェブメディア「AMARC(アマーク)」で編集長を務め、ファッション、美容などの情報を発信するほか、さまざまなイベント出演や有名ブランドとのコラボ商品を手がけるなど幅広く活躍中。ベネズエラ人の夫と長女、長男、次女の5人家族。
朝日新聞Thinkキャンパス