「置き配」の救世主?◆「物流24年問題」、オートロックの壁に挑む【時事ドットコム取材班】
トラック運転手の残業規制強化に伴う人手不足で、荷物の配達が滞る「物流2024年問題」。再配達を減らすため、戸建て住宅を中心に、自宅のドア前や自転車のかごなどへの「置き配」が進むが、オートロック式玄関のマンションでは、宅配ボックスが満杯で荷物の持ち帰りとなることも少なくない。そうした中、これまで置き配のハードルが特に高いとされてきたオートロック式マンションでも、置き配を可能にするサービスが登場。”救世主”となるかもしれない新サービスの利点と課題を探った。(時事ドットコム取材班・編集委員 豊田百合枝) 【ひと目で分かる】宅配便の増加 ◇50億個に膨張 国土交通省によると、2022年度の宅配便取り扱いは前年度比1.1%増の約50億588万個と、初めて50億個を突破した。ネット通販の普及拡大やコロナ禍の巣ごもり需要などを契機に、急増した。 国交省が行ったサンプル調査では、届け先が不在で再配達となる比率は、おおむね1割。 ただ、インターホン業界で国内シェア6割を占めるアイホン(名古屋市)が、オートロック式の集合住宅に住み、毎月宅配サービスを利用する人を対象に行った調査(23年8月)では、直近3カ月で約8割の人が再配達になったと回答。再配達の頻度が5割を超す人も34%いた。 ◇あふれる宅配ボックス オートロック式のマンションには、宅配ボックスが設置されることも多くなった。しかし、エントランスの宅配ボックスが満杯でふさがり、荷物が業者の持ち帰りになるケースも少なくない。アイホンの担当者は「一般的に設置できるボックスの数は全戸数の2~3割。宅配ボックスが埋まって持ち帰りとなるケースも増えている」と話す。 こうした問題を解決するため、新築マンションを中心に、各フロアや各戸の玄関先に宅配ボックスを設置するサービスが登場。サービスのカギは、各階に荷物を届けるため、エントランスのオートロックを、いかに安全に解除できるかだった。 ◇荷物の伝票をカギに アイホンが23年4月、新築分譲マンション向けに導入したのは、オートロックでも置き配ができる機能を追加した高機能インターホン。宅配業者を装った不法な侵入を防ぐため、荷物の伝票番号を使ってオートロックを解錠する。 配達員はインターホンで住居を呼び出し、伝票のバーコードをアイホンの端末にかざす。この情報が、ネット回線を通じて宅配業者のシステムにつながる。照合した伝票が一致し、届け先が正しいと認証されると、エントランスが開く。 宅配業者の営業所から、荷物をマンションに運ぶ間の一定の時間だけ解錠を有効にすることで、配達目的以外に、伝票を使って中に入るといった悪用を防ぐ仕組みだ。 アイホン国内営業本部営業推進部販売促進課の井上昌彦課長は「配送側の再配達の負担を軽減するだけでなく、家にいても、在宅勤務や料理の最中、子どもが寝ている時などは、配達を直接受け取るよりも置き配がいいといった住民のニーズに応えることにもつながる」と置き配システムの利便性を強調する。 ◇アマゾンにも対応 アイホンは、この「置き配」の仕組み「パビット」を、今後、同社が受注する新築高層マンションのオートロック・システムに、組み込んでいく計画だ。 パビットは、オートロック解除を使える対象が、ヤマト運輸の通販事業者向け置き配サービス「EAZY(イージー)」のみだったが、5月27日からは高機能機種で、米ネット通販最大手の日本法人、アマゾン(東京都)の置き配サービス「アマゾンキー」への対応も始まった。アマゾンキーは、同社が委託契約した配送ドライバーが、利用者の希望に応じてマンションのオートロックを解除できる仕組みで、両社のシステムを連携させる。 一方、既存のマンション向けにアイホンは、昨夏から入り口のインターホン脇に追加の小型端末を取り付ける後付けタイプの設置サービスを開始し、引き合いは強いという。 ◇スタートアップ、既存マンション向けで先行 既存マンション用に、独自の解錠システムを追加する後付けタイプのサービスでは、新興企業の「ライナフ」(東京都文京区)が2021年3月から「スマート置き配」を展開し、先行している。自動ドアの上部や管理人室に小型の専用機器を取り付け、提携配達業者の配達員を認証してオートロックを解除する。 22年3月に東急不動産グループの賃貸マンションに導入を開始したのに続き、24年3月には、約33万戸の分譲マンションの管理業務を行う三菱地所コミュニティ(東京)とも業務提携。三菱地所コミュニティが管理するマンションにも解錠システムの納入を進める計画だ。 ライナフは「『再配達を待つ時間がもったいない』といったタイムパフォーマンス重視の傾向が強まっている」(営業部)とみており、置き配サービスの利用ニーズは今後高まると予想。年間1万棟への設置を目指す。