「金輪際、親子になれないがそれでもいいか」貴乃花光司が語る相撲の原点と父子物語
強いと感じた対戦相手は「ハワイ勢」
―貴乃花さんが現役時代、強いなと思った対戦相手は誰ですか。 貴乃花さん: 小錦さん、曙さん、武蔵丸さんのハワイ勢ですね。特に武蔵丸さんかな。 彼らのパワー、体格、体の弾力は尋常ではないです。 日本の大きな力士とも全然違っていて、当たってもバーンと一瞬のうちにはじき飛ばされる。 相撲は、大きくて、やわらかくて、相手の力を吸収できる人が強いんですね。 まさしくハワイ勢のお三方です。 対戦してちょっとやそっとの努力じゃ対抗できないと実感しましたね。 曙さんは同期で、初土俵の次の場所で対戦したんですけど、瞬殺でふっ飛ばされた。 ハワイでバスケットボールしかやっていなかったはずじゃないの?と思いました(笑)。 当たって攻めに転じるとか言いますけど、正直そんな相手に、攻めるのなんか至難の技です。 そうやって簡単には勝てないということを体で知りましたけど、はやい段階でそれを知ってよかった。 努力のしようがあるし、自分の程度がわかりますから。 ―私たち一般人は経験できませんが、猛者ぞろいの対戦相手に挑んでいくときの気持ちは、実際どうなんですか。 貴乃花さん: まさに怖い、のひとことですね。 間違えば首の骨を折るかもしれない、そんな不安が毎回頭に一瞬よぎります。 超重量級の男が全力でぶつかる衝撃は、アクセル全開にした軽トラックを正面で受け止めるのと同じ。 頭から突っ込めば首が相手の体にめり込みます。 硬いままだとバンと弾けて回避できるんですけど、やわらかい弾力で受け止められると首がグニャッと入りこんでしまってむしろあやうくなる。 ぶつかった衝撃をやわらげるために、本能的にほかの筋肉でカバーする状態を“内ごもり”と相撲用語で言うんですが、いまだに天候が不順になると体全体にハリガネが入ったような強い痛みが出ます。 ボクサーはパンチドランカーと言いますけど、相撲取りは“リキシドランカー”ですかね(笑)。 それだけ相撲は過酷なスポーツといえます。 私は目一杯やって、師匠(父親)に教わって、やっとこさ横綱になれた。それが正直な感想です。