「砂漠にアートを植えている」福武英明が見た中東のアートシーン最前線
中東が大きな時代の変化の中心的な存在になる可能性
ビエンナーレのオープニングには世界から著名なアート関係者が集っており、彼らと現地のアーティストや政治家、王室関係者が“ゆるやかに”交流できる場が各所で設けられていた。その一環で、医者からアーティストに転身したアーメット・メターのスタジオを訪問。そこは、ペインティングやインスタレーションなど彼の幅広い創作の場であると同時に、次代のアートプロジェクトや気鋭のアーティストをPRするショールームのようでもあり、「国を代表するアーティストが文化戦略の一端を担っている」姿も印象に残った。 サウジアラビアといえば、未来都市「NEOM」の建設も進行中だ。その一部となる「THE LINE」は、海抜500mの高さに、全幅200m、長さ170kmの規模で、最終的には900万人が過ごすことのできる空間が完成する。100%再生可能エネルギーで稼働し、徒歩5分でさまざまな施設にアクセスできるような高密度都市になるとされる。確かに建設が進み、遠くに光るそれらしき“直線”にも、福武は「近年稀にみる長期的な戦略」の姿を見たという。 もうひとつ、カタールでは、世界でも珍しい巨大な仮説の展示空間で、ミニマリズムを代表するアーティスト、ダン・フレイヴィンとドナルド・ジャッドの二人展を訪れた。 「アブダビで世界的な文化や歴史を網羅し、ドバイでは商業地としてアートフェアを行い、ドーハでは振り切った現代アートを、サウジアラビアではそこでしかできない大規模な芸術祭を展開する。国ごとでなく“中東全体”として見るとバランスが取れていて、意図的に連携しているとしたらすごくクレバーです」 リヤドで開催される「ディリーヤ・ビエンナーレ」は今回が2回目。写真はLucy & Jorge Ortaの作品。 同時に、福武はそこに、14~16世紀にイタリアで始まり、欧州各地へ広まったルネサンスが重なって見えたという。思想、医学、建築、音楽が同時に革新されたルネサンスの中心には、美術があった。解剖図を写実的に描くことができるようになったことで医学が発達し、印刷技術の発達により多くの人にその技術が広まったように、異なる分野の進化が絡み合えば、技術革新が生まれることもある。 「起きていることすべてが連動しているようでした。ゆっくりと進めてもいい文化革新を一気に進めることで、中東が大きな時代の変化の中心的な存在になる可能性は、大いにあるのではないでしょうか」 福武英明◎ニュージーランドにてStill Ltdを創業。現地にて複数のアートやデザイン、クリエイティブ企業を経営。ベネッセアートサイト直島のプロジェクトを通して、瀬戸内海の島々で現代アートや建築を通した芸術文化活動、地域活動についての助成事業も展開。
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