母親が原作、娘が脚本・監督。映画『とりつくしま』制作裏話を東直子さん・かほりさんが語る!
いなくなるときが来る前に、伝えたい「ありがとう」
――ジャンルは違えど、創作を仕事にされているお二人。クリエイター同士として、お互いにどのような刺激を受けていますか? 直子さん:感情を動かされたものを共有できるのが楽しく、刺激になっています。面白い映画やかわいい雑貨など、なんでも。好きなものの傾向が似ているんですよね。 人もそうなんです。全然関係ないところで知り合った人が、実は共通の知り合いだった……なんてこともよくありますね。 かほりさん:でも、刺激し合えるようになったのは大人になってからかもしれません。幼い頃は、母の仕事が嫌だった時期もあるんですよ。「他のお母さんと違う!」って(笑)。反抗期が長くて、ひどい言葉をぶつけたこともあります。 でも、幼い頃から創作に近いところで育ったからか、何かを作りたいという気持ちは生まれやすかったかも。母の真似をして短歌を作ってみたり、小説の切れ端のようなものを書いてみたり……。短歌はうまく作れませんでしたが、小説は楽しかったんです。それが今につながっていると思います。 ――作品に登場する魂たちは、風景は見えていても、大切な人に自分の思いを届けられずにもどかしい思いをすることがあります。お二人は、大切な相手であるお互いに、伝えたくてもうまく伝えられていない…という言葉はありますか? 直子さん:そうですね。「ケンカした時期もあったけれど、あなたが好きなように、かほりらしく生きてくれたらお母さんは嬉しいよ」ですかね。改めて言うのはちょっと恥ずかしいですね。 かほりさん:私は感謝を伝えたいです。実はこの映画ができ上がってすぐに、母が乳がんになったんですね。そのときに、身近な人の命が突然なくなるかもしれない……という現実をリアルに感じた。これって『とりつくしま』のお話でも描いていることなのですが、なぜか実感がなかったんです。 母が病気になってやっと本当に理解できました。「まだいなくならない」と思う人だって、いきなりいなくなることがある。だからこそちゃんと感謝を伝えなきゃいけない、と。 そう思ってはいるのですが、まだ言えていなくて……。今ご質問いただいて母に言いたいことを考えてみたら涙が出そうになってきたので、ちゃんと伝えたいなと思います。 ……ありがとう。お母さんが原作を書いた映画を撮ることは、何か恩返しができればなという気持ちも少しありました。30歳くらいまで反抗期だった、私の親孝行です。 直子さん:私からも「ありがとう」。この映画が実現したのは、かほりを育ててきたことの成果のひとつでもあると思うんです。そんな作品を、映画のスタッフや役者さん、そして観ていただける方々と共有していけることは、娘からのちょっと変わった、素敵なプレゼントです。 歌人・作家 東直子 1963年生まれ。1996年第7回歌壇賞、 2016年『いとの森の家』で第31回坪田譲治文学賞を受賞。歌集に『春原さんのリコーダー』『十階』など。2006年に『⻑崎くんの指』で小説デビュー。著書に『とりつくしま』『さようなら窓』『ひとっこひとり』等。またエッセイ集『魚を抱いて 私の中の映画とドラマ』、詩集『朝、空が見えます』も。 映画監督・グラフィックデザイナー 東かほり 監督作『湯沸かしサナ子、29歳』で第9回きりゅう映画祭グランプリを受賞。初⻑編映画『ほとぼりメルトサウンズ』は、第 17 回大阪アジアン映画祭、第22回ニッポン・コネクション(ド イツ)、第14回ソウル国際シニア映画祭(韓国)、第6回 JAPANNUAL(オーストリア)に選出。原作の東直子さんとは母娘。 撮影/浜村菜月 取材・文/東美希 企画・構成/木村美紀(yoi)
映画『とりつくしま』 出演:<トリケラトプス>橋本紡 櫛島想史 小川未祐 <あおいの>楠田悠人 中澤梓佐 <レンズ>磯⻄真喜 柴田義之 <ロージン>安宅陽子 志村魁 小泉今日子 原作:東直子『とりつくしま』(ちくま文庫 刊) 監督・脚本:東かほり 公式サイト:http://toritsukushima.com/ 公式X:https://x.com/toritsukushi_ma 公式Instagram:https://www.instagram.com/toritsukushima_movie/ ©ENBU ゼミナール