「第2ステージ」に入ったISによるテロ 矛先は出身国に
欧州やアメリカに広がるテロ
ISの建国宣言が行われてから、これまでイラクやその周辺で発生していた同組織によるテロが、一挙に、欧州、アメリカなどの先進国で発生するようになりました(付表参照)。すなわち、2014年5月以降を見ると、欧州、米州、豪州の先進国でIS及びその支持者によるテロ事件は、主なものだけで30件以上発生していますが、その内容は、単独か2人程度のローンウルフによる小規模なものが22件、数十人から100人以上の死傷者を出した組織的なテロが10件発生しています。 このように、ISは、少人数で小規模なテロでも敵地に乗り込んで実行することによる衝撃度の高さを狙ったテロと、シリア、イラクで空爆を行っている有志連合参加国への大規模な報復テロの二つのタイプのテロを同時進行させていることが分かります。
表から分かることは、欧米でISによるテロが最も多く発生しているのはフランスで、続いて米国、さらにベルギー、ドイツでのテロが目につきます。フランスとベルギーは同じフランス語圏で、イスラム過激派も両国人が混じり合ってテロ細胞(テロ実行部隊など)を構築し、これまでに数々の事件を起こしてきました。フランスでは2015年11月の大規模テロ事件を受けて全土に非常事態宣言が発せられましたが、現在もこれを解除していません。それだけ今のフランスは、イスラム過激派によるテロの危険性が高い国と言えます。 一方、英国ではISによるテロは今年に入って3件起きています。英国は、2005年7月にロンドンで地下鉄3か所とバスが自爆テロに遭い、その後も移民系のホームグロウン・テロリストらによる航空機同時爆破未遂事件などが発生(事前摘発)しましたが、これら一連のテロはいずれもアルカイダ系によるものでした。英国政府は、それ以前から北アイルランド系の過激派組織から長期にわたり爆弾や銃撃によるテロに悩まされてきた経緯がありますので、法整備や市街地への防犯カメラ設置などのテロ対策がスムーズに進められてきました。今回のマンチェスターの事件で、一時的にしろ、テロの警戒レベルが5段階で最も高い「危機的」(Critical)に引き上げられたのも、過去に2度しか例のないことでした(2006年8月、2007年6月)。その後、関係者のほとんどが逮捕されたために、警戒レベルは1ランク下の「重度」(Severe)に引き下げられました。 イタリアでは2014年以降、若干の小規模テロは発生していますが、テロリストの封じ込めには大方成功しているといわれています。イタリアは既存の刑事法を強化して効果的にテロ対策を行っているのです。アルカイダ系のテロリストから常に名指しされ、ローマ法王の暗殺計画も何度か事前に発覚しています。イスラム過激派が最も敵視する十字軍の発祥の地だけに、引き続き高い緊張に包まれています。実際、ISもウェブマガジンの「ダービク」に「地中海の対岸のローマを必ず征服してやる」と記述しており、イタリアへの攻撃を虎視眈々と狙っていることがうかがえます。 一方、東南アジアやアフガニスタンでも2016年1月以降、ISが関わったと思われるテロが発生しています。これまでに発生した事件を見ると、インドネシア2件、バングラデシュ3件、パキスタン4件、アフガニスタン2件、マレーシア1件など、テロリストが拠点にしやすいイスラム人口の多い国を中心に起きています。