“元暴走族リーダー”牧師が若者の更生を支援 裏切り、暴言「やけどじゃ済まない」のになぜ続けるのか
「非行少年の支援は、時にやけどじゃ済まないこともある」 そう語るのは、大阪府東大阪市で非行少年たちの更生支援に取り組むNPO法人「チェンジングライフ」理事長、そしてキリスト教の牧師でもある野田詠氏(えいじ)さんだ。かつては自身も暴走族幹部として迷惑行為を繰り返し、鑑別所と少年院に収監された過去を持つ。 【動画】出院者として法務省のYouTubeに出演する野田詠氏さん 現在は主に、少年院や刑務所から出てきた若者に衣食住や職の支援を行っているが、手を差し伸べた者たちからの裏切りや、支援の失敗は数知れない。それでも野田さんは決して諦めず、「誰もがやり直せる」と信じ活動を続けてきた。 なぜ元暴走族幹部が牧師となり、さらに若者たちの自立を支えてきたのか。野田さんの“人生をかけた戦い”を聞いた。(倉本菜生)
暴走に窃盗、覚せい剤使用…荒れていた若者時代
野田さんは10代で暴走族に所属し、窃盗や暴力行為などで少年鑑別所に入ったのち、19歳のときには少年院送致となった。在院中に出会った三浦綾子の小説と聖書に影響を受け、生き方を変える決意をしたという。 「少年院に入るきっかけになったのは、仲間たちとの共同危険行為(※暴走族の集団走行)でした。自分たちのチームから100人が暴走に参加していて、表面的には僕が仲間をかばって代表者として逮捕された形です。だけど心の中では、『仲間をかばわないと地元に帰ったときにリスペクトを受けられない』という自己愛ばかりでした」(野田さん、以下同) 不良としての自分は格好よくありたい。そんな考えにとらわれていたある日、1冊の小説に出会う。実話を基に、鉄道事故から乗客を救うために自ら線路に飛び降りたクリスチャンの青年の生涯を描いた、三浦綾子の『塩狩峠』だ。野田さんは「読んだとき、自分の自己愛を見透かされた気がした」と語る。 「普通なら身体がすくんでしまう状況で、主人公は他人のために動いた。僕は不良の『殺すぞ殺してみろ』という虚勢の中で生きてきたから、誰かのために命を差し出せるなんて容易でないと思っていました。それで主人公の行動を後押ししたのは神の力じゃないかと、目に見えない力を信じる気になりました」 そこからキリスト教に興味を持つようになったものの、人生の迷いは晴れなかった。 「窃盗や暴走はもう卒業せなあかんなと思っていましたが、覚せい剤だけは卒業する気持ちになれていなかった。『薬物は自分の身体に入れるもんやから、人に迷惑をかけていない』と自分に言い聞かせて正当化していたんですね。でも、聖書にある『神の目には、すべてが裸であり、さらけ出されています』という一文を読んで、またしても自分の心を見透かされた気持ちになりました」 小説と聖書に感銘を受けた野田さんは、少年院を退院後、奈良県の神学校生駒聖書学院に進学。牧師の資格を取り、非行少年たちの社会復帰を支援する活動を始めた。 「同病相憐れむと言うんでしょうか。自分自身が非行や犯罪から離れられた経験があるので、加害行為から抜け出すきっかけさえあれば、非行少年でも普通に生きていけるはずだと感じていて。彼らを手助けしたいという気持ちでスタートしました」