「進行を500日ほど遅らせる」 難病ALS待望の新薬「ロゼバラミン」医師が乗り越えた″高い壁” 一度申請を取り消された薬が承認された背景
餅屋がやっても大変な大仕事である。ロゼバラミンは企業(エーザイ)主導の治験では承認に至らなかったものを、医師主導治験で新たに有力な証拠(エビデンス)を作ろうとして計画されたのが、今回の治験である。 製薬企業に長く奉職した筆者からしても、それがいかに大変であったかは想像にあまりある。 資金面だけでなく、余剰のスタッフがいない病院という現場で、膨大な事務機能を誰がどうやって担うか。担当する医療従事者は、倫理委員会などを通すための膨大な書類の作成や、治験に参加する患者さんの調整やデータの分析のほか、さまざまな事務処理を、日常の診療業務に加えて行わなければならない。
いくら製剤を提供する企業のバックアップがあったとしても、企業主導の治験の続きを医師主導治験でやるというのは、なかなかにハードルが高い。これだけは多くの人たちに知っておいていただきたいと思う。 それでも、そういう苦難を「絶対に役立つはず」という信念のもとにやり遂げ、新しいエビデンスを実証してみせた。 冒頭でも触れたが、この医師主導治験の結果、早期のALS患者さんにロゼバラミン(メチルコバラミン)を投与すると、16週の時点で機能評価スケールの低下を統計学的に有意に抑制させることがわかった(図参照。外部配信先では閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)。
機能評価スケールというのは、国際的に用いられているALS患者の日常生活を評価する尺度で、重症であるほど点数が低い。 その後の延長試験の結果からは、早期に投与した実薬群が遅れて投与したプラセボ群に比べて500日以上の生存期間の延長を示した。500日以上といえば1年半にもなる。一方、副作用などに関してはプラセボ(疑似薬)と同等で、安全性も高いことがわかった。 ■11~12月には治療が始まる ロゼバラミンが今回の承認につながったというストーリーは、まさに、専門医の医師たる矜持の最たるものである。筆者は同じ医師の端くれとして、感激といってよい感慨を憶える。