難題直面も、食卓彩る伝統漬物ナスの花ずし 「秋田の食文化広める切り札に」と生産者
秋田県南部の特産ナスの花ずしは、ナスの藍色に食用菊の黄色が鮮やかな漬物だ。地元では、正月など祝い事の際に地域の食卓を彩る副菜として、江戸時代ごろから親しまれてきたと伝えられている。近年は生産者の高齢化、製造場に厳格な衛生管理を求める法改正といった課題に直面するが、製造会社は「秋田の食文化を広める切り札に」と意気込む。(共同通信=本間優大) 花ずしは輪切りにしたナスを塩蔵し、菊と米こうじ、唐辛子を載せ、塩や砂糖などに漬け込む。塩味とほのかな甘みが特徴で、もち米を使っているため「すし」と呼ばれる。農家などがそれぞれ家庭の味を守ってきた。 同県横手市浅舞地区では、国内でコメが余り始めていた1960年代後半、農家の女性や農協婦人部が、廃棄される規格外の野菜を使って商売できないかと漬物の研究を開始。1971年に浅舞婦人漬物研究会を結成し、花ずしを含む漬物の販売を始めた。 花ずしは元々保存食であるため塩味が強すぎ、売れない時期が続いた。塩分を数値化して調整したりする改良を重ね、地元の直売所などに出荷されるように。2015年度から横手市のふるさと納税の返礼品に選ばれ、地域を代表する特産品となった。
知名度が上がった一方、作り手は年々減っている。国は北海道で起きた浅漬けによる集団食中毒を受け、2018年に食品衛生法を改正。届け出制だった漬物の製造販売を許可制にし、衛生基準に適合した加工場の整備を求めた。施設を改修せずに製造を続けるのは困難となり、改正法が完全施行された今年6月を前に廃業した農家も多い。 県によると、横手市で販売用の漬物を作る個人農家は2022年7月時点で187人。ほとんどが70歳以上と高齢化も顕著だ。 浅舞婦人漬物研究会の流れをくむ会社ATSは14人の職人を抱え、花ずしを製造する。高橋範彦社長(64)は「花ずしは米どころ秋田が誇る伝統食。職人の育成を通して食文化を残し、秋田の魅力を全国、世界に伝えたい」と話している。