なぜ飛行機は定刻通り飛ばないのか――根深い空港の「特殊事情」に加えて航空会社の「甘え」も?
「乗客の権利」を侵害する福岡空港の「門限問題」
遅延が常態化しているのは羽田だけではない。福岡空港や那覇空港などの地域の中心的空港も、特有の問題を抱えている。 福岡空港は羽田空港以上に都心からのアクセスがよく(博多駅まで地下鉄で5分、天神駅まで10分ほど)、世界でも有数の利便性の高い空港といえる。そして福岡はアジア諸国に近く、特に韓国からの来訪者が多い。 そんな福岡空港であるが、滑走路は1本だけであり、しかも市街地に近いため、騒音対策の必要性から、運用時間は7時から22時までに制限されている。この制限のために、最近では大きな注目を集めた「事件」があった。 2023年2月、羽田空港を18時30分に出発予定だった航空機が約1時間半遅れたために福岡空港の「門限」にひっかかってしまい、関西空港にダイバート(行先変更)し、さらにそこから出発地の羽田空港に戻ったのである。羽田空港に帰り着いたのは、深夜2時50分であった。 この間、乗客は狭い機内に長時間にわたって「閉じ込められた」ことになる。これは、日本では論じられていなかったが、欧米で主張されてきた「パッセンジャー・ライツ(乗客の権利)」を侵害するものでもある。 欧米では、かねてより悪天候などで長時間離陸待ちをすることで乗客が精神的・肉体的苦痛を被ることが問題視されていて、適切なサービスを享受する「乗客の権利」が強く訴えられてきた。例えば、アメリカのLCC(格安航空会社)の中には、パイロットに出来高制の賃金制度を導入したところがあった。この制度の下では、パイロットは実際に航空機を運航させなければ賃金を受け取ることができないため、たとえ悪天候であっても、何とか飛べるタイミングを待って、長時間でも離陸の体制を維持することになる。それがパッセンジャー・ライツの侵害につながっていったのだ。 福岡空港の「門限問題」は、パッセンジャー・ライツを侵害する典型例といえる。現在は、近隣の北九州空港へのダイバートを可能とすることで一応の決着ははかられているが、そもそもは根本の原因である門限を見直すことの方が重要ではないだろうか。 福岡空港では2本目の滑走路が2025年3月に供用開始予定であり、そうなれば遅延問題もある程度は解消されるだろう。しかし、厳しい門限がある限り、問題は残る。 技術進歩により、航空機の騒音は、規制が実施されたときよりもはるかに静かなものになっている。また、都市部における生活の24時間化も進んできた。22時という時間の捉え方も過去と現在では違っているだろう。門限の見直しは、最終便をめぐる夜間帯における航空便の集中緩和にも役立ち、遅延の防止にも資する可能性がある。 なお、那覇空港も福岡空港と同様、多くの航空会社が乗り入れる空港でありながら、滑走路が1本しかない空港として、全国的な遅延の1つの原因となってきた。そこで対策が求められ、2020年3月、那覇空港で新しい第2滑走路が供用開始された。 しかし、この第2滑走路は空港ターミナルからかなり離れた沖合に建設されたため、滑走路とターミナルビルの間の移動に時間がかかり、同じ航空機を使った次便の遅延につながる事例も出てきている。 滑走路も「ただ増やせばいい」という話ではないのだ。