なぜ飛行機は定刻通り飛ばないのか――根深い空港の「特殊事情」に加えて航空会社の「甘え」も?
羽田空港を悩ませる米軍横田基地の存在
羽田空港は、国際線、国内線いずれにおいても、現在、日本の中心空港である。成田空港の存在もあるが、2010年10月に羽田空港が再国際化したことにより、国際線の主力も利便性の高い羽田空港に移行していったことは否定できない。その結果、羽田空港はその混雑度を極限まで増すことになり、それが遅延の増加にもつながっている。 しかし、なぜ羽田空港はこのような問題を10年以上も解決できないままなのだろうか。それは米空軍・横田基地の存在があるからだ。 羽田空港の周辺の空域は、隣接する横田基地の空域(横田空域)、そして成田空港の空域とも隣接していて、自由な飛行ルートが設定しにくい事情がある。特に横田空域の存在は問題で、その領域には日本の航空機は許可なしに進入することさえできないのだ。 そのため、日本の航空機は、この空域を避けるために大幅な遠回りをするか、離陸後に急激に上昇して当該空域の上空を通過しなければならない。西日本から羽田空港に向かう便を利用した人の中には、大島上空から千葉県の房総半島を通過し、それから反転して首都圏上空を経て羽田空港に着陸するというルートを通ったことがある人も多いだろう。なぜまっすぐ羽田空港に最短距離で向かわないのか、腹立たしく思った人もいるはずだ。航空会社としても、最短距離で飛んだ方が燃料コストも安くつくし、定時性も確保しやすい。 だが、日本は、これからも横田空域の存在を前提とした航空行政を行っていかざるを得ないだろう。アメリカにとっては、首都圏に近い場所に拠点を置くことは政治的にも軍事的にも極めて大きな意味をもち、今後もこの空域を日本側に返還するということはまず考えられないからだ。石原慎太郎氏が東京都知事だった時代には、東京都は、横田空域の返還を求める運動を行っていたが、交渉の当事者の国土交通省の話では、アメリカ側はこのテーマの交渉には全く応じなかったということであった。 第5滑走路を建設すれば現状の混雑問題は解決できるという主張も見受けられるが、「空域問題」が横たわる以上、その効果は限定的で、遅延の問題の解消にはなかなかつながらないだろうと考えられる。そもそも第5滑走路を建設できるような場所を見出すこと自体が難しいし、この厳しい財政の中、滑走路建設のための巨額の資金をどのように工面するかという問題も重くのしかかる。