ラリージャパン2024に参戦するアルピーヌ「A110 R-GT」に同乗試乗してみた
■ ラリージャパン2024に参戦するアルピーヌA110 R-GTが日本上陸 FIAによってラリー用にホモロゲートされたアルピーヌA110が参戦する「R-GT」は、厳格なレギュレーションによって改造が規制されたカテゴリーだ。主な舞台はヨーロッパのターマックラリーでWRCやECRなどに併設される時も多く、A110のワンメイクラリーもあり盛況だ。R-GTには他メーカーも参戦していたがアルピーヌ登場後ほぼ独壇場になっている。 【画像】ピレリ P ZEROは235/40R18を前後同サイズで使う 「ラリージャパン2024」のために日本に初めてやってきたのはフランスに拠点を置くCHAZELチームのA110 R-GT。CHAZELはルノースポール時代から深い関係を保ち、アルピーヌ「A110」やルノー「クリオR3」など多数のモデルを走らせている。今回もA110 R-GTとクリオ R3を走らせる。そのA110 R-GTがラリージャパンのシェイクダウンの合間を縫って報道陣に公開された。 標準のA110との主な違いは、トランスミッションがフーリーエモ製のシーケンシャル6速に変更されていることが大きい。サスペンションはスプリングとショックアブソーバーは自由でCHAZEL仕様はアルプ製のショックアブソーバーを使う。油圧ストッパー付きで伸び圧単独調整でセッティング幅は広い。もう1つの特徴はサスペンションメンバーが付いているサブフレーム。エンジンマウントごと高い位置に上げられ、リアのストロークを伸ばしていることだ。タイヤはピレリのワンメイクでP ZEROだが前後同サイズの235/40R18。 ドライバーのFUMAL選手はベテランのいわゆるジェントルマンドライバー。コ・ドライバーは若手のESCARTEFIGUE選手が務める。彼は2025年は「ラリー2」にステップアップするという。ヤリスなのか、シュコダなのか……。 シェイクダウンではルノー・ジャポンとCHAZELの粋な計らいでにコ・ドラ席に乗せてもらった。ラリースピードで走るA110 R-GTの横に乗るのは得難い体験だ。ルーフベンチレーションから冷気が送りこまれるが、レーシングスーツを着たコクピットはやはり暑い。 タイヤウォーミングゾーンでブレーキやタイヤを温め、本番さながらにスタートシグナルが点灯してダッシュする。クラッチを使うのはスタートだけで、あとはパドルによるシフトで左足はブレーキに専念する。天候は晴れで外気温は11月とは思えない初夏のような気温だ。立ち木が生い茂る林道コースは狭く、ツイスティなラリージャパンを象徴するようなコースだ。しかも乾ききらないハーフウェット、さらにその上に滑りやすい落ち葉や苔が乗っており、コースを複雑にしている。 WRCではタイヤは3種類用意され、ピレリのワンメイク。ドライ用のハードとソフト、それにレインで1ラリーで使える本数は24本に制限される。今日はプライベートテストでハードを使ってのテストだ。ちなみにトラクションコントロールやECSやABSも備えているのが他のラリーカテゴリーと違うR-GTの特徴だ。 トルクの太いターボエンジンは短いストレートでも瞬発的な加速をする。メータークラスターの中にあるはずの計器類はすべてハンドルセンターに集約されている。全域トルクのようなエンジン特性でシフトタイミングは流れるシグナル表示で知らせてくれる。シフトはパドルで行なうが、ローレシオのギヤ比でわずかな直線でもシフトップしている。 ちなみにステアリングセンターのダイヤルでESCやABSの強さが調整できる。今日の路面では何れも早めに効くように設定されていた。センターボードにあるエンジンのマップ変更スイッチはエンジニアが調整し、クルーが触ることはないという。 A110 R-GTはミッドシップでバランスに優れている半面、ミッドシップならではのトリッキーさもあるのではと心配したが杞憂だった。アルピーヌに慣れたFUMAL選手の腕もさることながら、車両もこれまでのデータから初めての日本の道にも想像以上にコントロールしやすそうだった。ドライバーは最初から80点のレベルだと自信を持てたようだ。 とにかくノーズがよく入る。ターンインでのステアリング応答性がよく、ノーズをインに向けたまま旋回していく。かと言ってリアがオーバーに流れることもなく完全にドライバーのコントロール下にある。 一度コーナーの立ちあがりでテールアウトになったものの素早く大きなカウンターステアで収めた。ヨーの収束も早く見事に元のラインに戻る。また強力なLSD効果もあってタイトターンでのトラクションはよくかかり、常に前へ進もうとするのはまさにラリーカーだ。 気味のわるいのはウェットで路面に苔が乗っているコーナー。それまでのグリップが急に宙に浮いたような感触でヌルリとくる。FUMAL選手は巧みなアクセルコントロールで対応していたが、レース歴20年。ラリー歴12年(アルピーヌ歴2年)の欧州の滑りやすいコースで鍛えられた腕は確かだ。 A110 R-GTは荒れた路面での接地性も優れており、1080kgというラリー装備でも軽量な車体がぴたりと路面を捉えた安定性におどろく。 そしてもう1つの武器がブレーキだ。大径ローターとブレンボの4ピストンシステムは強力で、最小限のノーズダイブで身を捩るようにして制動する。路面に吸いつくようなブレーキは後輪荷重の大きなクルマに特有の強みで、それをコントロールするのはドライバー自身。そのタイミングと踏力をコーナーに合わせられるのはベテランらしい。 ツイスティなコースだがドライバーは小刻みにステアリング操作して操舵量を最小限にして走らせ、時としてズバッと切り姿勢の動きは滑らか。ウェット路面では時々、大きなカウンターステアを当てていたが欧州のラリーでは基本的にはグリップ走行で、ドリフトして走ることはないという。この意味でも日本は特別で難しいラリーという感想だった。 A110 R-GTはターマック仕様のために車高は極端に落とされており、フロントのアンダースポイラーは下面が路面とこすれてギザギザになっていた。その代わり大きな姿勢変化もなくフロントタイヤを中心にして旋回しつつ、急速なテールアウトがないようなセッティングだ。油圧バンプラバーと減衰力の設定が絶妙だったがラリー中は路面によって微妙に調整する。この作業はコ・ドライバーの仕事でショクアブソーバーのどの位置を触ればいいかは図がドアに張り付けてあった。空気圧調整は温間で1.8~1.9kpaに合わせるという。 さて圧巻はラリージャパン専用のスペシャルカラー。いつものブルーからサンド色をベースにしてボディ一面に龍、鯉、そして北斎の描く大波が表現されている。ドライバーとコ・ドライバーが考えた日本をリスペクトしてくれたスペシャルカラーだ。 FUMALさんもESCARTEFIGUEさんも人懐っこい。CHAZELチームはプロフェッショナルな組織だが家族的で暖かい雰囲気。一緒にいて楽しい時間だった。
Car Watch,日下部保雄