築69年「大阪でいちばん異形のビル」がついに解体へ…ビルも“住民”もエキセントリックな「味園ビル」が濃厚すぎた
「ローリング・ストーンズもまだ80でやっとるから、負けてられへん」
いま入っている店のなかでは古株にあたる。さて、今後はどうされるのだろう。 「僕はこれでしか食べれないから、どこか店を探さないとしゃあないです。たぶん一斉に出ていかなあかんから、みんな探してると思うんだけどね」 今年で70歳。「もうあと何年生きてるかわからへんけど」と前置きをしつつも、『ローリング・ストーンズ』もまだ80でやっとるからな。負けてられへん」とおっしゃる。 いい話だなーと共感していたら、ふらっと入ってきた人が慣れた様子でカウンターに座った。
ふらっと入ってきた人に声をかけてみたら...
声をかけてみたところ、同じ2階で営業している「新春シャンソン荘」という有名なバーのオーナーであった(「店の名前だけでいいじゃないですか」ということでお名前は省略)。 「きょうは僕、休みで。スタッフがやってくれてるんで、いま飲みにきたところ」 30代に見えたが、47歳だそうでちょっと驚き。店を開いたのは「2011年ぐらい」だが、もともとは2001年から味園の社員だったのだそうだ。「だからもう23年ぐらいいます、このビルには」。 だとすれば、管理会社の事情もおわかりかも。 「こうやってお店の人らに取材してるのはちょいちょい見ますね。事務所はもう突っぱねてる。取材が多すぎて、だいたい断ってるんですよね、新聞とかテレビとかも。もう手が回らないんで」 やはりそういうことか。ともあれ20年以上ここにいるということは、寂しさもあるのでは?
「いつかは来るなっていうのはわかってた」
「寂しいけど、しょうがないでしょ。いままで、よくもってくれたほうやと思ってる。契約自体も、ずっとできませんよという感じだったんで、いつかは来るなっていうのはわかってた」 「『いよいよやな』ということやからね」とマスターの重田さんが加わる。みんな、似たような思いを抱きながら店を続けてきたようだ。ちなみに、店がなくなったあとのことは「ノープラン」だそう。 さて、もう1軒、味園を代表するお店を訪ねてみよう。サブカル好きの方々から高い評価を受ける「深夜喫茶銭ゲバ」だ。店内はこぢんまりとしており、左右にテーブル席。 伺ったとき、左奥のカウンターには女性がひとり座っていた。常連さんのようだが必要以上に話し込むこともなく、静かにこの雰囲気を楽しんでいるように見える。その向かいにいらっしゃった店主のムヤニーさんに、タイミングを見計らって話を伺った。 「ZZ BAR」の重田さんと同じく、もとはお客さんだったようだ。19年前に脱サラして店を開かれたそうで、現在50歳。サラリーマン時代に味園の店で飲んでいるとき、「テナントも空いてたし」ノリで始めただけなのだとか。東京まで名前が聞こえてくる有名店だが、開店のきっかけは思いのほかラフだった。