現行の政治改革案では政治資金の流れは透明化されないこれだけの理由
国会の内外で与野党双方の協議が続けられた結果、12月17日、政治資金規正法の改正案が衆院を通過した。 石破首相は今国会冒頭の11月29日に行った所信表明演説で政治改革について3つの論点を挙げた。それは「政策活動費の廃止」と「政治資金を監視する第三者機関の設置」、そして「政治資金収支報告書のデータベース化」の3つだった。首相が挙げた3つの論点が本当に実現すれば、日本の政治資金の透明化は大きく進展することが期待できる。しかし、首相の構想が政党間協議に舞台を移した瞬間、話がおかしくなってきた。 与野党ともに政党から政治家個人への渡し切りの寄付である政策活動費の廃止を掲げていたが、自民党は当初、「要配慮支出」や「公開方法工夫支出」などの言葉を弄して、何とかこの先も政党から政治家個人への渡し切りの寄付を可能にする道を残そうと悪あがきを続けてきた。しかし、少数与党の力には限界があった。他の野党が足並みを揃えて政策活動費の完全廃止を主張している以上、自民党も最後はそれに従うしかなかった。 自民党は12月16日、「公開方法工夫支出」の主張を取り下げ、すべての政策活動費を禁止する野党案を受け入れた。 実は政策活動費については当初の自民党案にはもう1つ抜け穴が用意されていた。自民党案は議員個人に渡し切りの支出ができない対象となる政治団体として、「政党(本部)又は国会議員関係政治団体」という制限が付けられており、そこには政党の支部や一般の政治団体、企業や業界団体が設立した政治団体などは含まれていなかった。実際、「政党(本部)又は国会議員関係政治団体」は合計しても3,000ほどしかなく、それは6万近い政治団体の総数の5%程度に過ぎない。だから自民党案では、例えば政党が政党支部に寄付を行い、政党支部が政治家個人に経費なり活動費なりの名目で間接的に支出をすることは依然として可能になるはずだった。 しかし、この点も自民党は野党の要求をのまざるをえなくなり、最終的に法案では渡し切り禁止の対象となる政治団体をすべての政治団体とする野党案に一本化されることとなった。 これで二階幹事長が5年間で50億円近くの寄付を受けていたり、茂木幹事長が1年間で10億円近くの寄付を受けていながら、その使途は一切不明なままで済まされてきた政策活動費については、一応完全に撲滅されることになったと見て良さそうだ。 しかし、今回の改正案にはもう1つ大きな問題点が残っていた。それが「なんちゃってデータベース化」問題だ。 これまでビデオニュースではデータベース化の重要性を再三再四指摘してきた。現行の制度では政治資金収支報告書がPDF形式でしか公表されていないため、不記載や不正を発見するためには、毎年何十万ページにものぼる政治資金収支報告書を事実上手作業で突き合わせなければならなかった。そのような時間と手間のかかる作業は現実には不可能なため、現行の政治資金規正法はそれが順守されているかどうかを誰も確認することができない代物だった。どんなに法律を強化しても、それが順守されているかどうかを誰も確認できなければ、そんなものは法律とは言えない。それがこれまでの政治資金規正法の実態だった。 そのような悲劇的な状況を改善するために、単に現在PDFでしか公開されていない政治資金収支報告書を機械判読し、検索が可能なデータ化をすることで、誰でも政治資金の流れを容易に把握できるようにしようというのがデータベース化だ。石破首相も記者会見や今回の所信表明で繰り返し「収支報告書の内容を誰でも簡単に確認できるデータベースの構築」と述べている。しかし、今回の与党案はデータベース化の対象を「政党」と「政治資金団体」、「国会議員関係政治団体」のみに限定しており、17日に衆院を通過した法案でも自民党が採用されている。これでは政治資金の提供者と受領者の双方をマッチングすることができず、今回の裏金事件で問題となった記載漏れの有無も確認できない。 野党も現在PDFで公開されている全データのデータベース化には後ろ向きなため、現在法案審議が進む国会の政治改革特別委員会でも、あるいは与野党協議でも、また予算委員会でも、この点が問題になっていない。 繰り返すが「政党」と「国会議員関係政治団体」に3つしか存在しない「政治資金団体」を加えても、全政治団体の5%程度にしかならない。つまり95%の政治団体の政治資金の流れはデータベース化されないということだ。そのようなデータベース化に何の意味があるのか。そもそもPDFでは公開されている情報がデータベースでは公開されないというのは、有り得なくないか。また、それは石破首相の「収支報告書の内容を誰でも簡単に確認できるデータベース」の方針に合致するものなのか。 事ほど左様に政治資金を巡る与野党協議は、少しでも国民の関心が下がっていると見るや、ありとあらゆる抜け穴を挟み込んでくる。特に今回の「完全データベース化」ならぬ「一部のデータベース化」は与野党が共犯関係にあり、また主要なメディアもこの点をほとんど指摘していない。メディアはこれに気づいていないのか、それともわかっていてあえて報じないのか。 石破首相が繰り返し述べているように、日本の政治資金規正法は「規正」の文字に現れているように、政治資金に量的制限を設けることよりも、それを透明化することを優先するアメリカの法の影響を強く受けている。しかし、今回の与党案では政治資金透明化の柱となるデータベース化が非常に限定的なものになるなど、透明化と呼べるにはほど遠い内容になっている。こんなことでは政治スキャンダルは根絶できず、よって政治不信は一向に収まらず、また政治は常に検察に対して隷属的な地位に甘んじることになる。このどれをとっても、主権者たる国民にとって良いことが1つもない。 12月17日に衆院で可決し参院に送られた政治資金規正法の改正案はどこに問題があるのか。なぜ部分的なデータベース化では意味がないのか。本来、政治資金はどうあるべきかなどについて情報公開クリアリングハウス理事長の三木由希子とジャーナリストの神保哲生が議論した。 【プロフィール】 三木 由希子(みき ゆきこ) NPO法人情報公開クリアリングハウス理事長 1972年東京都生まれ。96年横浜市立大学卒業。同年「情報公開法を求める市民運動」事務局スタッフ。99年NPO法人情報公開クリアリングハウスを設立し室長に就任。理事を経て2011年より現職。共著に『社会の「見える化」をどう実現するか―福島第一原発事故を教訓に』、『情報公開と憲法 知る権利はどう使う』など。 神保 哲生(じんぼう てつお) ジャーナリスト/ビデオニュース・ドットコム代表・編集主幹 1961年東京生まれ。87年コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。クリスチャン・サイエンス・モニター、AP通信など米国報道機関の記者を経て99年ニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を開局し代表に就任。著書に『地雷リポート』、『ツバル 地球温暖化に沈む国』、『PC遠隔操作事件』、訳書に『食の終焉』、『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』など。 【ビデオニュース・ドットコムについて】 ビデオニュース・ドットコムは真に公共的な報道のためには広告に依存しない経営基盤が不可欠との考えから、会員の皆様よりいただく視聴料(ベーシックプラン月額550円・スタンダードプラン1100円)によって運営されているニュース専門インターネット放送局です。 (本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)