菅田将暉 × 黒沢清 映画「Cloud クラウド」が描く「普通の人がギリギリに追い込まれる現代社会」
――そういうエピソードを通じて吉井の普通さが伝わってきて面白いですね。
菅田:吉井が淡々と悪事を遂行していく様子は、バカバカしく見える時もあれば、頭がキレる犯罪者のように見える時もあるし、普通の青年に見えることもある。本人は真面目に悪事を働いているだけなのに、どんどん環境が変わって物語が動いていくんです。
吉井の変化
――吉井も他のキャラクターと同様に状況に翻弄されているんでしょうね。最初、吉井は感情をあまり表には出しませんが、映画の後半になって追い詰められることで人間的な感情が出てくる。映画を通じて吉井が大きく変化していくのも本作の見どころです。
黒沢:順番に撮っていったわけではないのですが、菅田さんの演技は見事に計算されていました。おっしゃる通り、話が進むにつれて吉井は恐怖でだんだん感情を見せるようになり、最終的にはその恐怖の感情を超えたところに至る。感情面でものすごく振り幅がある役なんですけど、菅田さんはそれを見事に表現されていました。吉井の大きくうねる感情を、そして、その感情がまだ爆発しない曖昧な状態も全部表現されていた。だから、観客は吉井に乗っかって最後まで観ることができるんです。
菅田:ちゃんと素直にリアクションするところ、しないところというのは意識していました。例えば目の前で初めて人が殺されると素直に怖いしパニックになる。でも、そういった出来事が終わった瞬間、「ネットに出した商品、どうなってるかな?」と言い出す余裕のなさみたいなものも一貫していて。だから、常に感情は複合的に、と思っていました。一つの感情で動くことはなかったと思います。
――菅田さんは黒沢監督の作品に出演されるのは今回が初めてですが、監督の演出はいかがでした?
菅田:ほんとうに楽しかったです。撮影の流れはどの現場もおおむね同じですけど、黒沢さんが「じゃあ、このシーンをやります」と決めて、演者に説明や動きをつけていく時は、宝箱が一つひとつ開いていくような感じなんです。「あ、ここはこんなこと起こるんだ」って、黒沢さんが出してくるアイデアが毎回楽しかったです。黒沢さんの頭の中が覗けるようで。