菅田将暉 × 黒沢清 映画「Cloud クラウド」が描く「普通の人がギリギリに追い込まれる現代社会」
――吉井は窪田正孝さんが演じる先輩に「自分は関係ないって顔するなよ」と言われたりしますが、吉井は本人が意識していないところで相手をイラつかせる何かを発してしまっているんですね。
菅田:そうなんですよね。相手にまったく興味がないわけではないんです。吉井なりに話を聞いているけど、ちょっと違う方向に気がいっているだけで。そういうところをどうやって出していくかは、現場で調整して監督に判断してもらえば良いと思っていました。
黒沢:今、思い出したんですけど、「自分は関係ないって顔するなよ」って言われるくだりで、吉井がゲームで先輩に勝ってしまうところの菅田さんのリアクションはうまかったですね。
菅田:ああ、あそこは面白かったですね(笑)。
黒沢:吉井は先輩に勝ったら気まずいのが分かっていながら、うっかり勝ってしまった。「あ、どうしよう」と思った吉井の気持ちが手の動きで表現されているんです。僕は何も指示していなかったんですけど、その手の動きを見て「吉井ってこういうヤツなんだよな」っていうのが伝わってきました。「あなたとはずっとこれぐらいの距離感で、近づきも遠ざかりもしたくない」って思っているのが。
――吉井は他人との距離感に敏感で、他人に近づいたり、近づかれたりすることを負担に感じるんでしょうね。だから人間関係がこじれてしまう。
黒沢:そうなんですよ。
菅田:「よっしゃ! 先輩、俺勝ちましたよ」って言えば、どれだけかわいいかっていう話なんですけどね(笑)。
――荒川良々さんが演じる会社の上司が吉井のアパートを訪ねてきた時、吉井が慌てて居留守を使うシーンがサスペンスフルに描かれていたのが印象的で、吉井にとって人間関係がネックなのが伝わってきました。
菅田:そのシーンは現場に行くまで、あれほどスリリングなものになるとは思ってなかったです。現場で黒沢さんに動きをつけてもらう中で、これはただ事じゃないな、と分かってきた。想像していた以上に丁寧に演じました。