菅田将暉 × 黒沢清 映画「Cloud クラウド」が描く「普通の人がギリギリに追い込まれる現代社会」
今年に入って、「蛇の道」「Chime」と新作の公開が相次ぐ黒沢清監督。そんな中で新たに公開される「Cloud クラウド」は、近年、社会的に問題になっている転売屋を主人公にしたスリラー作品だ。工場で働くかたわら、転売で稼いでいる吉井。吉井が知らず知らずにまいた憎しみの種はネットで大きく成長して、やがて吉井に襲いかかる。吉井を演じたのは黒沢作品に初めて参加した菅田将暉。黒沢監督が絶賛する演技力で菅田は物語を引っ張っている。現代社会に生きる「普通の人」が巻き起こす恐怖を描いた本作について2人が語ってくれた。 【画像】菅田将暉 × 黒沢清 映画「Cloud クラウド」が描く「普通の人がギリギリに追い込まれる現代社会」
※記事内には映画のストーリーに関する記述が含まれています。
――「Cloud クラウド」の主人公、吉井は転売で儲けることに夢中で、そのために他人が傷ついても構わない。でも、根っからの悪人ではなく、ごく普通の男ですね。吉井というキャラクターはどのようにして生まれたのでしょうか。
黒沢清(以下、黒沢):たまたま僕の知り合いに転売をやっている男がいるんです。彼はごく普通の男で一生懸命に転売をやっているんですよね。なんで転売をしているかというと、一度、会社に勤めたんだけど全然うまくいかなくて、そこを辞めて1人で生きていくために転売を始めたんです。転売があまり良いことではないと知っていながらも、朝から夜まで商品を梱包したり、発送したり、実に真面目に働いている姿が、ある意味、微笑ましく、悲しく、ちょっと愉快でもありました。「こうやって、人はどんな苦境の中でもしたたかに生きていくんだな」と感じたんです。そして、転売というのは、現代社会ではありふれた生き方の一つなんだろうな、とも思いました。そういったことが興味深くて、吉井というキャラクターを考える上で友人のことは参考にさせてもらいました。
――菅田さんは吉井という人物のどんなところに興味を持ちました?
菅田将暉(以下、菅田):まず、どんなキャラクターか分からないところに興味を持ちました。でも、どういう人物なのか、ということを掘り下げることはしませんでした。というのも、台本を読めば彼の行動がキャラクターを表していることが分かったからです。台本に書かれていることをしっかり遂行していけば大丈夫だと思いました。ただ、会話している時の声のトーン、息をするポイント、視線を通じて、話をしている相手に「こいつムカつくな」と思わせるポイントを、ところどころ入れなきゃいけないとは思っていて。そこはちょっと難しいところでした。