パリ五輪柔道“あの”疑惑のルーレットを金メダリスト・永瀬貴規(31歳)は現場でどう感じた?「フランスに流れがあったのは間違いない。でも…」
「日本は完全にアウェー」だった団体戦
現地時間2024年8月3日、柔道競技男女混合団体戦が行われた。 団体戦は決勝まで4試合あり、永瀬は準々決勝のセルビア戦に出場。対戦相手は1階級上の90キロ級、しかも世界選手権で2位のネマニャ・マイドフ(28歳)だ。しかしひるむことなく試合を展開して勝利をつかみ取り、チームの準決勝進出に貢献した。準決勝のドイツ戦で日本は完勝し決勝に駒を進める。 決勝の対戦相手は開催国フランス。観客はもちろん、放送を見ている視聴者を含めたフランス中が、熱い想いを選手に送る。パリオリンピックでのハイライトシーンだった。この決勝戦、アリーナのスタンド席から見守った永瀬も、個人戦とは違った雰囲気をひしひしと感じていた。 「会場は観客の熱く激しい雰囲気で溢れかえっていて、国対国の対決という感じでした。もちろん日本は完全にアウェー。歓声はもう、ほとんどフランス選手への応援だったので、それがフランスチームの表情に表れていました。私自身は、日本選手の勝利を信じていましたし、この逆風の中で勝ったら最高に気持ちいいぞ、と考えていました」 柔道の混合団体は、男女各3階級の6階級で試合を行い4勝先取したチームが勝ちとなる。この決勝戦は6試合終えた時点で3対3と決着がつかず、抽選で選ばれた階級の選手が代表戦を行うこととなった。抽選に使われたのは「デジタルルーレット」。オリンピックでは初登場の抽選方法だ。 ルーレットの結果は「+90」。代表戦の階級は「男子90キロ超級」に決定した。フランスのこの階級の選手は今大会の個人戦でも金メダルを獲得した国民的英雄のテディ・リネール(35歳)。アリーナで更なる熱狂が湧き起こる一方、リネール対斉藤立(22歳)という“でき過ぎ”なこの対戦カードに、日本国内では抽選の不正を疑う声が上がり、SNSでは「ズルーレット」などと批判する声が相次いだ。
あのルーレットでは「90キロ超級を引く」予感が…
しかし永瀬は、代表戦になった瞬間にルーレットが90キロ超級を引く予感がしたという。 「オリンピックには人間が差配できない機運のようなものがあります。大将が負けて代表戦となったときに、やっぱりフランスに流れがあったのは間違いなかった。ここでもう一度リネールが登場したら……と思っていたら、その通りに。ああ、フランスには運があるなと思いましたが、次の瞬間には、チームメイトの斉藤選手を信じて応援する、その気持ちだけでした」 永瀬の願いも空しく、試合はリネールが日本の斉藤に大内刈りで一本勝ち。フランスが混合団体の金メダルを獲得した。 若い斉藤にはつらい経験になったかもしれない。だが、屈辱をはらんだこの経験こそが糧となる、と永瀬は知っている。 「斉藤選手は、このパリオリンピックの経験を必ず次のロサンゼルスオリンピックに活かすのだと思います」 パリオリンピックでフランスが示した強さは、運だけではない。フランスでの柔道への人気と全国に広がる育成のシステムが強さを支えた。その姿は今や日本が見習うべきものだ。 「柔道は本当に素晴らしいスポーツでありそして心身を鍛錬することができる究極の武道です。私も、柔道家のひとりとしてそのことを広く伝えていきたいですし、子供たちの育成には力を尽くしたいと思っています」 <次回へつづく>
(「オリンピックPRESS」小松成美 = 文)
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